それ以上に腹立ち紛れに思わず汚い言葉が出てきそうになったものの、それを腹の中に抑え込んだ。

 落ち着きを取り戻し、再び部屋の中を覗き込めば、小さな生き物が自由に飛びまわっているのが目に入った。

「なんだあれは?」

 セイボルが暫くそれに気を取られていると、バルジの大きな体がムクリと動き、窓の方に近づいてくる。

 セイボルはハッとして、慌てて窓の端の壁に体をへばりつけた。

 それと当時にバルジは何か異変を嗅ぎ取り、窓を開けてみたが、暗くて何も見えず、怪訝な顔だけを暗闇に向けた。

 その側でセイボルは息を殺していた。

「どうした、バルジ?」

 マスカートが訊いた。

「……いや、別になんでもない」

 バルジは何かを感じ取りながらも不確かなため、気のせいで済ますことにした。

 すぐに窓を閉め、背中を向けた。

 セイボルはその隙にその場を離れ、再び、馬の元へ戻っていった。

 屋敷から離れると、感情を抑えられず、不満たっぷりに大きく溜息を吐いた。

「なぜ、ジュジュ王女がここに居るんだ」

 苛立ちと困惑、そして困り果てたようにセイボルは頭を抱え込んだ。

 馬は心配そうにして、顔を近づけ励まそうとしていた。

 その心遣いに感謝しつつ、優しく撫ぜてやるも、セイボルは本心を吐露する。

「今回ばかりは大丈夫とは言いにくい。大変な事になってしまった。私はどうすればいいんだ」

 また深い溜息が漏れ、セイボルは再び馬の背に跨った。

「仕方がない。とにかく作戦を練らねばならない。よりによってあの連中と係わってしまうとはなんとも厄介なことだ」

 今宵はなす術もなく、屋敷から遠ざかるしかなかった。

 しかし、暫くすると突然気が触れたように笑い出した。

「何を恐れることがあるのだ。私は魔王だ。なんとでもなる。困難なときほどチャンスに変えるときだ」

 開き直ったとでもいうように、セイボルは覚悟を決め、背筋を伸ばして森の奥深くへと入っていく。

 ジュジュ王女を手に入れるためには何でもしてやるという覚悟になり、半分ヤケクソも入っていた。

 セイボルは懐から巾着のような袋を取り出し、その中に手を入れるとパウダーのようなものを一掴みした。

 それを呪文と共に森の中にばら撒くと、キラキラと光を放ちてそれは風に舞っていった。

「多少リスクはあるが、なんとかなるかもしれない」

 暫くその動作を繰り返し、セイボルは森の奥深くへと消えていった。