静まり返った暗い森の中に溶け込んで、黒い馬が慎重に歩いている。

 時折り、背中に乗せているセイボルを気遣い、自分がしている事が正しいのか確認するように首を後ろに回す。

「大丈夫だ、そのまま行ってくれ」

 馬の首を優しく撫ぜるように触れては、セイボル自身も落ち着こうとしていた。

 すっかり日が落ちた森の中では、不安をそそるものがあるが、魔王と称されたセイボルにはそれが自分に相応しい場所だと常に思っていた。

 だが、この時ばかりは、顔が強張りそして体に緊張感が走る。

 何かの間違いであって欲しい。

 そう願いながらも、顔を歪ませていた。

 そして、薄っすらとした明かりが木々の間から漏れている所に出くわすと、セイボルは落胆して馬から下りた。

 その場所に、馬を置き去りにし、自分だけが明りのある方向へとしのび足で向かう。

 暫く行ったその先には、立派な屋敷が薄明かりにぼやっと浮かびあがっていた。

 それは存在感を知らしめ、セイボルを困らす。

 思わず顔が歪み、セイボルは音を立てずに、その建物の様子を探りに近づいた。

 風がどこからか吹いては、セイボルの長い髪をなびかせる。

 それがあたかも鬱陶しそうにセイボルは手で押さえ込んだ。

 屋敷との距離が縮まるにつれ、それと比例するように益々体に力が入っていく。

 強張った足で小枝を踏み潰せば、パキッと乾いた音がセイボルをハッとさせた。

 自分でも極度に緊張しているのが突然おかしく感じ、不意に息が漏れるようについ笑ってしまった。

「私としたことが」

 何も恐れる事はないと、再び自分らしさを取り戻し、セイボルは中の様子を探るために用心して壁伝いに歩いた。

 屋敷を回りこんだところで、窓から家の中の光が漏れて、辺りがぼんやりと照らされていた。静かな暗い森と正反対に、屋敷からは明るく談笑している声が聞こえていた。

 セイボルは気配を消しながらそっと窓から覗き込んだ。

 その時、セイボルの目が大きく見開く。

 そこで見たものは、暖炉の側で4人の男達に囲まれ少女が笑っている姿だった。

 思わず「チッ」と舌うちをしてしまった。