「こうなると、暫くは自分の世界に入りこんだままだ。気にするな、すでに手遅れだから、こうなったら好きにさせてやってくれ」

「手遅れ?」

「ああ、本当は本人もその原因をわかってると思うんだ。でも否定して自分を誤魔化しているんだ。その振られた理由が酷いからね。マスカート自身には問題はないと思う。見掛けは悪くないし、頭もいい。だけど地位と金がなかった。その彼女が選んだ男は身分が高いお金持ちだったんだ」

「それって、地位とお金を選んだってことですか」

「ああ、そうさ。なんだかやりきれないけどさ、俺はそれも有りかなって思う。この世の中、力と金がモノをいうしさ、俺だってやっぱり良い条件の方を選びたくなるよ」

「そんな……」

「ジュジュは余程恵まれた環境で育ったんだろうね。世の中きれいごとじゃ済まされないことなんて一杯あるのさ。この屋敷で生活するって事はそういうことでもある。それでもここに居たいのなら、自分が汚れてしまう覚悟を持つことだな」

「汚れてしまう覚悟?」

「ああ、ジュジュが思うような、甘い生活はここにはないってことさ」

 ムッカの言葉に首を傾げていると、突然がらがらとうるさく音が部屋中に響いた。

 マスカートが何かにぶつかり、そこに置いてあった鍋が崩れて床に落ちた音だった。

 その音でマスカートはやっと正気に戻り、辺りを見回し慌てていた。