「それで、今回誰に決まったの? まさかこの街から誰から選ばれたとか」

「それはないない。というより、王女は急病でパーティが中止になったらしい」

「へぇ、それは残念だったね。よりによって、この大切な時に」

 ジュジュには耳が痛い。

 お城としても苦肉の策に違いない。

 嘘も方便。

 しかし、本人はいたって健康だから心苦しかった。

「みんなもがっかりだったらしい。パーティはその一年後に延期になったそうだが、どうも王女は重病らしいって噂だ。もしかしたら来年のパーティすら危ういかもしれないって専ら噂されてる」

「それって王女が危篤ってこと?」

 これにはジュジュも仰天した。

 人の噂は尾ひれがついてとんでもない話に発展しがちだが、それを身を持って目の前で体験して、世の中の噂というものがどれほど馬鹿げているか思い知らされた。

 それでもその原因は自分の身勝手さがもたらしたこと。

 身から出た錆とはまさにこの事だと、深く反省する。

「詳しくは判らないが、女王が深く落胆して、あまり人前に出なくなったらしい。かなり心配してるそうだ」

 それは病気を心配しているのではなく、ジュジュが城から抜け出したことを心配しているに違いない。

 ジュジュは自分の母親の心情を考えるといたたまれなくなってしまう。

 そこにマスカートがまた戻ってきた。

「ジュジュ、顔色が悪いが、大丈夫か。昨日から働きづめだから疲れてるんじゃないのか」

「えっ、いえ、そんなことないわ。大丈夫よ」

「それだったらいいけど」

 マスカートは首をかしげ、そして御者に話しかける。

「どうせ街へ戻っても、またマーカスを迎えにここまで戻ってくるんだろ。だったら、私も一緒に街にいっていいか?」

「ああ、構わんよ。なんか欲しいものでもあるのか?」

「別にそうではないのだが、ちょっとね」

 マスカートはドルーの事を気にかけていた。

 よりを戻すつもりはないが、あの後どうなっているのか気掛かりだった。