「どうか、したのか?」
横から声がした。

「ひっ」思わず声を上げる。

国崎君に邪魔された。

自分もまばたきしてしまって、空白の時間が生じてしまった。無念。

また、ラップタイムの計りなおしだ。


まあ、課長が、まばたきしないでいられる時間はどうでもいいとして。


課長の声も具合が悪かった。

課長の声。これも問題。たいして特徴もないはずだったのに。

何がどうしたものか、彼の声まで気になるようになっていた。


オフィスの雑踏のがやがやした中で、彼の声だけがクリアに聞こえる。

元々特長のある声で、聞き取りやすい声なのだけど、前よりもっと耳に着く。


まずい事に、フロアのどこにいても、パーティションで隠れてたり、隅っこで姿が見えなくても、彼の柔らかい心地よい声は聞き取る事ができた。


そうなったのは、多分、課長とビアホールに行ってから。
その時から、特に気になるようになっていた。



こんなんじゃあ、まるで私が、課長の姿を常に探していて、彼の関心を引きたいみたいに見える。困った事態になっていた。