国崎君が加わって、四人体制になった。
国崎君が私の隣に座って、課長は、私の目の前の席に変わった。

恵麻ちゃんが、どうしても私の視界に入る。
そんな時に、国崎君の顔を眺めているのは、具合が悪い。

なので、デスクで作業をしている時、横にいる国崎君の視線を避けなければならなくなった。


そうすると、目の前のメガネの課長に視線を送ることになる。

そのことは、いいんだけど。

最初は、オフィスの白い壁に、課長の姿が背景に加わった程度だった。
私にとって課長は、その程度の認識だった。


ビアホールの一件から、課長はサイボーグじゃなくて、ふつうの人間だってこともわかって来た。

サイボーグじゃなくて、相手が人間だと思うといろいろ気になってくる。

何を見てるのかなあ。とか。

くしゃみをする時、口元に手を当てて、クシュンとすごく遠慮がちにするとか。

だから、それがどうしたっていうの。
確かに、あの容姿に『クシュン』は合わない。
くしゃみする姿は、ちょっと可愛い。
もう一回しないかなと思う。

そんなにどうでもいいことなんだけれど。

それでも、ずっと目の前にいられるのは気になる。

誰もいない右側を向いていられれば、一番楽なのだけど、そんな風にするのはどう考えてもおかしい。無理がある。

私は、パソコン越しにずっと、課長の顔を視界に入れて仕事をすることに慣れずにいた。


何が違うのか……

分からないけど……

どうでもいい事が気になりだした。


私の落ち着かない原因は、この人だ。

やっぱり。国崎君じゃなくて。



メガネの課長が前の席になったくらい、大したことでは無いはず。

これまでだって、課長は視界に入っていにはずだし。


ああああ、変だって。
やっぱり普通じゃないって、この人。


本当に、どうでもいいことなんだけど、課長って、何でまばたきしないの?

バカげてる。課長がまばたきしないからって、どうだっていうのだ。

ほんと、どうでもいいのだけれど、どうしてまばたきしないのかやっぱり気になる。

人間として不自然だって、おかしいって。

目が乾燥したりしないのかな。

そう思って、パソコンの画面を見る振りして、課長の姿を盗み見る。

そして……

そうしているうちにも彼は、まばたきをしない。