社長室を出たころには、これで私が、人事部から出してもらうっていう選択肢は、なったらしいと思うようになった。

だとしたら、あのメガネも気になる。
誰だろう。

もしかしたら、あのメガネは、あそこにたまたまいただけかもしれない。

同じ職場かなあ。思いっきり席が離れてて、姿が見えないといいな。


エレベーターで移動して、総長とこれから朝礼が行われるというので、下のフロアに向かう。


「あの……」


「何だ?」


「先ほど、人事課のオフィスに行ったのですが、メガネをかけた男性がいました」

総長は、少しも考えないで言う。

「ああ、藤原君のこと?」

総長もすぐに誰だかわかる。そんなに、有名人なのか?

「ええっと、彼は?」

ありがたく思えっていうふうに、総長は、自慢げに言う。

「すごく優秀な社員だから、彼にいろいろ学べばいい」

「はあ」
学ぶ?学ばなくてもいいっていう選択肢はあるかしら?


「何か不満か?」


「いいえ。恐そうだなと思って」
やっぱり、彼は最悪の場合、同じグループということもあるのか。


「まさか。女性には、すごく優しいよ」
その、女性に入れてもらえるかどうかが問題だ。