それから、数日して、営業部の課長の一人が、人事に不満を持ち、新しいシステムの信頼性を損ねるように、データを改ざんしたと分かった。

異動の希望や、他の部署に移りたいという、積極的なアピールをデーターに含ませると、優秀な営業マンがいなくなってしまうと思ったからだと告白した。



その営業課長の後釜が、月島さんになった。

月島さんは、早速、本社にやって来て、人事部にもあいさつに来た。

藤原課長を見ると、絶好のターゲットだと決めたみたいに絡んで来た。
「藤原、しばらくお前の彼女借りるぞ」

「月島さん、営業研修ですか?」
私が先にたずねる。

「ああ、今年は地方にも行くか。二人で酒のうまいところにでも出張しよう。なあ、藤原?」

「どうぞ。彼女とは、家に帰っても、ずっと一緒ですから。一泊くらい平気ですよ」
と課長が切り返した。
月島さんは、からかっても平然としている課長が、つまらないなと笑った。

「あいつ、変われば変わるものだな」と驚いていた。


先のことは何も考えていないという課長は、仕事の事しか頭になかった時と違って、別人のように片時も離れたがらない甘い恋人になった。



傍から見れば、口うるさい上司が恋人なんて耐えられないと思われてる。

国崎君や恵麻ちゃんも、「課長、うっとうしい」という始末だ。

よくあれだけ、干渉されて一緒にいられるわねと、恵麻ちゃんもあきれるほどだった。



「それに……」
いつも、二人きりで休日を過ごす。

「なに?」

彼は、くすっと笑う。


「開発部の人材を選ぶとき、テストでこっそり自分の好みのタイプを混ぜておいたんだ。背が高くて、元気がよくて、すらっとした足をした女性とかね……」

それが好みの女性?
そうなの?


「それで?」

「何度試しても、君が出て来た。コンピューターは俺の好みの女性を、全国の社員の中から探し出して見つけてくれて、絶対に君にしろって言ったんだ」

真面目そうに見えて、そんなことして遊んでたんだ。


「そんな好みを反映した人事、正確な人選じゃないでしょう?」

「いいや。いいんだ。条件を増やしただけだから、君は元々基準をクリアしてた上に俺の好みの女性なんだ」

「えっと……」
それって、他に何人引っかかったのか気になるけど。

彼は、また思い出すように笑った。

「スゲー威力だったな。最初に君を見た時。もろ、好みだったよ。近づいたら理性も規律も保てないと思ったから、君とは距離を置かないといけない。そう思ってるうちに、君を国崎に取られそうになったな」

「国崎君とのこと、知ってたの?」

「あいつがいつも、君のこと気にしてたのはすぐに気が付いたよ。異動したいって強く言いだしたのも、君が来てからだし。それに、誰も見てないと思ったところで、君の足、ずっと見てたし」

「足ねえ、これがそんなに」
スカートから見える足をのばして見せる。

「そのスカート丈、少し短い。いっそのことロング丈か、ズボンにしてよ。ああ、ダメ。ズボンは腰のラインがはっきりしちゃう。そういうの、誰にも見せないで」


「そんなの、歩きにくいからダメ。でも、安心して。
あの二人には、体の大切なところは、まだ触れさせていない。
こんなふうにキスするのも、あなただけ」

「知ってるよ。天野に希海があの時、俺にどんな顔見せるか知ってるかって、かまかけたら、すごい剣幕で怒りやがった。だから、未遂だって分かってたよ。あの程度じゃ、たいしたことない」

「そんなことまで、話したの?」

「でもなあ、月島さんだけは得体が知れない。彼に言われたんだ。
『栗原を乗りこなせないのは、上に立つものとして力量がない証拠だ。使いこなせないなら、返してくれって』なあ、これって、本当に仕事だけの意味か?希海、月島さんとは、そういう関係に……」

「なるわけないでしょう?」

「わかった。ごめん。これ以上やきもちを焼かないようにする。だから、苗字を変えて、目立つ結婚指輪をして、誰の目にもわかるようにしよう。出張に行くのはそれからだ」



【完】