「出し巻き玉子、もらってもいいですか?」

「ああ」

お腹が満たされていき、アルコールで気分が高揚する。

課長は、真面目な顔して私の顔を見ると、私の頭の上に視線を移して、そのまま考え込むように目を閉じた。


「栗原、ちゃんと話せよ。俺を信頼しろ」


「信じるも何も。話すことなんてありません」
月島さんにも背中を押してもらった。
なのに、本人を目にするとやっぱりダメだ。

「何を抱え込んでいる?」


「私が課長にしてもらいたいことは、何もありません」


逆です。
負担をかけたくないんだ、私。

細く見える肩幅、腕の中におさまると案外広くて心地いのも知ってるし、抱きしめられるとあなたの匂いに包まれるのも私は、大好きです。

でも、そばに置くつもりはないんでしょう?

私よりも大切なものがあるし、私は二番目でしかない。


「課長?一つお願いがあります」


「なんだ?」


「私を月島さんのところへ、戻してください。あなたにしてほしい事って、それだけです。
私は、自分がやりたいと思える職場に戻りたい。ですから、私が望むのは……」

「それは、しないっていうか……できないよ」


「どうしてですか?人材開発だって人員整理の対象でしょう?国崎君も恵麻ちゃんもどっちも外せないじゃないですか?課長は、私を追い出すしかないはずです」

「君を手放すなんてことしない」

「どうして?誰かが外に出なければいけないでしょう?」

「それはないよ」