あ甘い恋は、ふわっと美味しく召し上がれ




「栗原、ちょっと付き合え」

帰り支度を始めたタイミングで、課長が声をかけて来た。

国崎君も恵麻ちゃんもすでに、帰宅した後だった。

「はい」

彼は、すでに帰る用意がしてあって、私がバッグに中身を移し替えると、疎らに残業している周りの人に、お先に失礼しますと声をかけた。


「腹減ってるだろう?」

彼は、端正な顔に少し笑みを浮かべた。

「はい」

「少し、飲むか」
彼はそういうと、優しく私の肩を叩いた。


「はい」


ビルを出て、駅とは違う方に向かう。

しばらく歩いてから、以前、歓迎会をした店の前で立ち止まった。


彼は、振り返って「ここでいい?」と指で示した。

私は、課長の後に続いた。


店は、混雑していた。

客の声が、BGMにかき消され、単なる意味のない雑踏になって耳に入ってくる。

いらっしゃいませ、と普通に対応されていたけど、ビールのサーバーのところで、ビールを注いでいるお兄さんが私たちに気が付いて来てくれた。

「お久しぶりですね。今日はお二人で?」

「ああ」

「奥の個室にしますか?」

「ああ、そうしてくれるかな」