報告しようと思った矢先、私は課長に呼ばれた。

彼は、メガネで威嚇するように私をじっと見つめる。
にらまれても、平気だ。
私は、何も考えないようにする。

私を熱っぽく見ることはあっても、単なる欲望っていうだけで、私のこと好きだからじゃない。
そうなんでしょう?

「何か、言うことはないか?」

「別にありません」
私は平常心で、さらっと答えられる。

「書面はできてなくてもいいから、今すぐに口で説明してくれ」

「課長、手元に何もないものは、形にはできません」

「何もない?そんなわけないだろう」

彼は、別れた恋人じゃない。
まだ好きな人でも無くて。

彼は、私の上司だ。報告しなければならない。


「確かに営業部の社員の一人に記入漏れが見つかりました。ただ、それだけではまだ、何かあるとは言えません」

「誤入力だっていうのか?」

「はい。その可能性もあります」
私は、彼の目から視線をそらす。

「本当に何もないのか?」

「ですから今の段階では、何かあったとは言えません」


「誤入力に記入漏れ。それをやられると、機械は正確な判断を下せないってことになるけど分かってるのか?データの信頼性が揺らいでしまう」

「はい」

「もういい、分かってるだけでいいから、資料を渡してくれ。それから、君はこの件から手を引くこと」

「はい」

明らかになんかあった。
でも、結局課長は、私のことを信用してくれないんだ。