目が覚めたのは、大きなベッドの上だった。

あの後、ずいぶんお酒を飲んで、天野君に言われるまま体を揺らして踊るふりをした。

頭が重い。

その上、気分も悪い。

体が重いのは、気分だけの問題じゃなかった。

目が覚めて、すぐに感じたのは誰かが自分の上に重しのように乗っかって大きな体だった。

重いって。

横に転がそうと思っても、びくともしない。

自分が抜け出そうとしたら、相手も目を覚ました。

「あ、天野君……どうして一緒に?」
彼はシャツだけになって、私の体とピッタリ重なっていた。

「ちょっと、降りてったら」彼の体を揺する。

彼が起き上がって、ゆっくり上に上がってくる。


「やっと目覚ましたか。会社の関係者だし、意識ないうちにやるのはまずいと思って」

天野君は、体をどかしてくれるつもりはないようで、キスするために余計に体重をかけて来て、私の頭をガッチリ両手で押さえた。

「希海ちゃん、楽しんだって別にいいじゃん、今は、誰とも付き合ってないんだろ?一回くらい何も考えずに成り行きに任せたら」

唇に軽くキスされた。

こういうふうにキスされるの、初めてだ。
好きな人から。こんなキスをされたら嬉しいだろうな。

天野君、キス上手なんだろうな。

天野君の事が好きだったら、官能的でのぼせ上れたかもしれない。

でも、どんなにうっとりするようなキスをされても、キスしたい相手じゃないと、単なる粘膜の接触でしかない。

熱い視線で見つめられても、心にまったく響かない。

会いたいな。
彼に会いたい。

「藤原さん……」

彼は、私のこんな姿を見ても、何とも思わないんだろうな。
そう思うと、心が痛む。

「ふざけんな。誰だよ。それ」
なんだよと、言うと彼は、傷ついた表情になった。

天野君は、やる気をなくしたように、私の体を突き飛ばした。


彼は、顔をしかめて気分を害されたって顔してる。

「そんなんじゃだめ。全然ダメみたい」

「ええっ?」


そばにいるだけで気分が高揚して、胸が苦しくなる。
彼の指が触れた肌が、熱を帯びてくる。

キスされればされるほど、違うっていうことがはっきりする。

「ごめん、誰でもいいわけじゃない。約束の時間過ぎたね。私、もう帰る」