「君がセクシーだって、どうしたら、男がその気になるのか教えてやる。おいで」

天野君は、私の手を引くとフロアに引っ張っていった。

天野君の言う通り、さっきより人が多くなっていた。


私の背中が人に当たる度に、彼が、こっちへ来いよと引き寄せてくれる。

彼が、こうして体を揺すっていればいいからと、見本を見せてくれる。

「無理だって、踊れない」私は、笑って答える。

「なに?聞こえない」


仕方なく、彼の耳元に顔近づけると、そのままぐいっと抱きしめられた。

「何してるの……」
私は、天野君の胸の中にすっぽり収まっていた。

「こうしてないと聞こえないから、仕方ないだろう?」
しっかり腰を抱かれて、身動きが取れない。

「ここは、邪魔だから隅の方に行こう」
押し出されるようにフロアから遠ざかっていく。

「ねえ、天野君……」
腕から、逃れようと思って身をよじる。

「ハイヒール履いてって言っただろ?」
天野君は、しっかり私の腰を捕まえていて逃げられない。

「それと何の関係が……」
いきなり口を塞がれた。

「キスしやすい。それだけだよ」



キスされながら、私は課長のことを考えてる。

こんなことくらいしか、役に立てない。

キスされながら、天野君が心を開いて話をしてくれたら。

この体、少しは、あなたの役に立てますか?



何するのよ、と力なく天野君に言っても、声は空気に触れないまま吸収されてしまう。

キスが深くなって、息ができなくなる。

むせかえるような会場の雰囲気に酔って、何度もキスされて気が遠くなった。

そのうちに、キスを止めてという気力もなくなった。

彼の手が、好きなように私の体に触れている。
それも、もう、どうでもよくなった。


彼は、今、仕事をしていてる。
私が何をしていようが、気にも留めないだろうな。