「理由なんか、言わなくていい。会いたかったら会いに来ればいいんだから」

「はい」

「難しい話は、後でゆっくり話そう。だから、好きなだけ飲んで食べるといい」

「はい」

それからは、ゆっくりと話をした。
たわいのない話。
普通の恋人たちみたいに。

仕事以外の話というと、彼はいろんな話をしてくれた。
学生時代の事、小さかった時の事。

「そういえば、俺たちは、こういう話をずっとしてこなかったな」

「はい」

聞いても、いつか、私にとって関係ない話になってしまうのだろうか。

関係ない、手の届かなくなった人の話を、嬉しそうに聞くことはできないと思ってる。

いろんなことを知ってしまえば、離れていくことが苦痛になってしまう。


国崎君からも、宮崎さんからもちらっと聞いていた。

課長は、3年の約束でこの会社に入ったのだと。
だから、ここに居るのはあと一年もないはずだった。

『課長、会社辞めたらどうするだろう?』
その場に居合わせた、恵麻ちゃんが遠慮なく聞く。

『また別の会社に移るか、高い知識を得るために勉強しに外国に行くんじゃない?』
国崎君が、俺には関係ないって答える。