「恵麻ちゃんってさ、仕事完璧だよね」

さっき、課長が出かけていってフロアから完全に消えたのを確認してから言った。


「言われてることやってるだけです。褒められるようなことしてません」

恵麻ちゃんは、私が話しかけたぐらいでは、中々顔を上げてくれない。

規則正しくキーボードを打つ指が、乱れることなく連打されている。

「すごい、プロ意識だね」


「どうしたんですか?何か頼み事ですか?」
ちらっと原稿を見るときに、私と目が合う。

すぐに目をそらされてしまったけど。

「もしかしたらさあ、恵麻ちゃんて、毎日人に言われた仕事だけやらされて、つまんないと思ってない?」
恵麻ちゃんは、何も目的がないのに、要求されている以上のことをするタイプではない。

私には、彼女の目標が何だか、それがよくわからないけど。

「思ってません。そんなこと」
それは、嘘だ。

トイレの個室にいるときに、私の話をしているから。

恵麻ちゃんは、自分が変わっても主任の責務は務まると思ってる。
時々、個室でくつろいでる私に、わざと言ってるんじゃないかと思う。


『そうだよね。でもさあ、折角の才能をみすみす書類の作成で費やすのって、能力の無駄使いじゃない?』このセリフは、恵麻ちゃんの気持ちそのままだ。