さらに顔を近づけて、数センチのところまでくる。

「何するんですか?」
思わず後ずさる。


「静かに」
声を静めるようにと、すっと指が伸びて来た。

私は、指で拭われるのを予想した。
課長は、予想に反して両手で頭をグッと引き寄せた。

あの時みたいに。


「あっ……」

でも、触れたのは指先じゃなかった。
彼の唇が口元をかすめ、口についたソースごと唇を吸った。

「んんっ……」

と声が漏れ、彼の舌が、私の唇を舐めまわす。


「なんで別の男に聞くの?」
囁くように耳元で言う。


「えっと……」
あまりのことに、言葉にならない。


「どうして別の男に頼るの?」


「どうしてって言われても」


「わからなかったら、俺に聞いて。国崎に頼るな」


「はい」


「もう、食事は済んだみたいだな。じゃあ、また今度な」

最後に、ぎゅっと抱きしめられた。


へなへなと崩れ落ちて、床にぺたんと座り込んでたところに国崎君が入ってきた。

「どうしたの?」


「うん」

「ダメだった?」


「それはないと思う」

「ないと思う?」

「うん。私にもよくわからない」