「栗原?」

「はい」

やばい。なんか見られてる。

ええっ?

私、なんかした?

課長を怒らせるようなこと、何か言った?

ええっと、待って今、考えるから。

どうしよう……怒ったのかな

お願いです。

そんなに見つめないでください。


クスッと課長が笑った。

笑った?

どうして笑うのよ。


「栗原?」
いつも聞いている何でもない声が、耳にまとわりついて甘い声に聞こえる。


「はい」



「人にじっと見られるってどんな気分?」

そんな……

今、そんなこと言いだすなんて。

急にそんなこと言わないでください。意地悪です。


心の準備ができていません。



「ええっと……どうしよう。課長、あの。気付いてたんですか?」

みるみるうちに顔が赤くなるのが分かった。

「あれだけ見られてたら、何も気にしてなくても分かるだろう」

「すみません、つい。気になって」
どうしよう。全身の力が抜けてしまったようになってる。

「俺の顔の何が気になったんだ?」
お願いです。そんなにまっすぐ見ないでください。
ただでさえ、こんなに顔が熱いのに。

「目……です」
あなたが、まばたきしないから、とはさすがに言えなかった。


「目?」


「す、素敵な目だなと思って」


「嘘つけ。そういう顔つきじゃなかったぞ」

課長、声を大きくして笑ってる。
仕事中でも、そういう顔見せてくれればいいのに。

「本当です」
多分、その頃から気になってたんだ。

「信じない」

「じゃあ、どうしてか。課長が当ててください」

そうしたら、もっと早くに気が付いてたのに。