『家まで送るよ。もう立てるよね?』


少年は手を差し伸べてルトを立たせた。


『家まで送るって言っても、そんなに家遠くな……え?』


ルトは立ち上がってみると、驚いた。

周りの景色は、見た事も無い場所に変わっていたから。

さっきまで家の近くの住宅街の中にいたのに、クラクラするくらい高いビルばかり建っている都会に変わっている。

少年はクスクスと、フードの下で面白そうに笑った。


『ね?帰り道分かんないでしょ。送ってあげるから、着いてきてよ』


きっとこれを断ってこのままここにいても、ずっと帰れないままだ。

どっちにしろ困るなら、家に帰れる可能性を賭けてこの少年について行った方が賢い。

ルトは大人しく少年の後ろをついて行った。


『ねぇ、君は何者なの?』

『さぁ、誰だろうね』

『どこから来たの?』

『んー、どこだろう』

『さっきの薬みたいなやつ、何?』

『なんだろうね。知~らないっ。ふふっ』


ただ後ろを歩いて少年の背中だけ見るのも暇なのでルトは声をかけるけど、返事は言葉遊びのように空っぽで、長く続かない。

でも何か言わないと少年が遠くへ行ってしまいそうで、口を閉じずにはいられなかった。


『ねぇ、君の名前は?』

『……◯◯』

『え?』


最後の質問にやっと少年が振り返って答えた。

けど、ルトにはその答えより少年の目に釘付けになった。

満月のように、まん丸で黄色い目をしてたから。




気が付くと、ルトは家の前に立っていた。

少年はいつの間にか消えてた。

けど、ルトはあの少年の正体を知ってる。