御津がクビになってから十年後。お靏姫はヤンチャな少女から活発な美しい女性となり、城を支えていました。

勿論、御津に酷いことをした事は、誰にも言っていません。それどころか、仕事が忙しすぎてその事すら殆ど忘れていました。

丑三つ時の事でした。


『……お、つる……お靏……』


スヤスヤと眠るお靏姫の傍から、誰かが呼んでいます。

お靏姫は聞き覚えのあるその声に、パッと目を覚まし、勢い良く起き上がりました。


『み、御津……御津なの?!』


自分の広い部屋を見渡しても、誰もいません。


『……何処にいるのよ、御津?!』


―――ザッ!!


『きゃあああああぁぁぁぁぁッッッ!!!』


自分の腕に走る激痛のあまり、お靏姫は倒れました。

見ると、白魚のような綺麗な腕に、白とは対照的に割いたような真っ赤な傷があります。


『い、嫌……なんなのよ……』


痛みに耐え、使用人達を呼びに行こうとするお靏姫でしたが、背後から迫って来る冷気がそれを許しませんでした。


『赦さない……赦さない……』


冷気はどんどんお靏姫にまとわりつき、彼女の身体を芯まで冷やしていきます。


『赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない!!!!!!!!!!!!!!!』


お靏姫は人形の様に冷たくなっていき、身体が殆ど動かなくなってしまいました。声を出すのがやっとの様です。


『み、つ……』


倒れたまま動けないお靏姫の前に、脚の無い身体が透けた女性が立ちました。


『!!』


勿論、御津です。


『お靏……』


御津はゆっくりと口角を上げ、楽しむ様にお靏姫を見下ろします。


『いやあぁっ、やだ、来ないで!!』