数日後。城の者が殆ど出掛け、お靏姫と御津の二人だけでのお留守番となった日の事です。

その日、姫様は一日中大人しくしていました。御津を油断させ、作戦を実行させる為です。

そして夕刻。城の者が帰ってきたその時。



ガチャン!!



お靏姫は城の家宝である唐渡りの壺を割りました。


『ひ、姫様!なんて事を……!』


すぐさま御津が駆けつけ、姫様の傍に駆け寄ります。

お靏姫は御津を突き飛ばし、割れた壺の上に転ばせ、大声で叫びました。


『御津が、御津が家宝の壺を割ったわ!』

『なっ、?!姫様、何を?!』


壺の価値をお靏姫が城で一番知っていますからね、皆疑いもせず、お靏姫の言葉を信じて皆御津を軽蔑の眼差しで見詰めましたよ。

そうして、直ぐに御津は城の者に捕えられてしまいました。


『ち、違います!私ではなく、姫様が……!』

『お前にはガッカリだぜ、御津。最後まで姫様に罪を擦り付け続けるとは……』

『そんな……!!』

『もうお前はクビだ。この城から出て行け!!!』


御津は濡れ衣を着せられたまま、城をクビになってしまいました。

この時彼女をクビにしたのが、私の先祖、狼一なんですよ。


それから数年後、御津は自分から職を奪ったお靏姫と、自分をクビにした狼一を怨みながら、亡くなったそうです。

原因は、壺の破片が刺さった傷口から雑菌が入った事。それで重い病にかかってしまったらしいです。

御津の家はあまり裕福では無く、薬を買うお金も無かったそうです。


なにせ、江戸時代ですからねぇ。現代のような医療技術なんてありませんですから。致し方ない事と言えば、そうなんですけどねぇ。


『お靏が、私が城へ勤めていた時の……歳に、なったら……お靏も狼一も、呪って、やるんだか、ら……』


これが、御津が最期に言った言葉だそうです。