「やば……泣きそう。涙で空になったスープ再び満たされそうなんだけど」


「それは汚いよ」


泣き真似をする真弓に景子がツッコミを入れる。


「篠村お前……苦労してんだな」


わたるがしみじみと言った後、佑香の肩をポンと叩いた。


「本当だよ。お父さん空気読めよ。ガンダムも可哀相過ぎるでしょ」


「いやいや、お父さんは娘の事心配だったんでしょ」


景子が憤慨して言った言葉に対し、わたるが答えた。


「なんか簡単にガンダムって言えなくなっちゃったね……」


ポツンと呟いた真弓にまたしてもわたるが


「いや、現在進行形で言ってるし」


と言う。


「野田はもうツッコミいいよ。お前黙れよ。センチメンタル感じないのかよ」


「うう……お母さん、切ないよ。うちの娘の初恋話、切ないよ」


「真弓……」


「景子……」 


当の本人をおいてきぼりにしたまま、景子と真弓は盛り上がっている。


「いや、もう本当に終わったことだし。うちは後悔はしてないから……」


「景子―!」


「真弓―!」


佑香の言葉で更に二人は盛り上がった。


「いや、そろそろ次いこうか。じゃあ、真弓」


わたるが呆れたような表情で真弓を指さした。


「何で、うち?」


「この湿っぽい空気を壊すには、お前の話が一番だ」


「わたるがすればいいじゃん!彼氏いるんだし」


「えー!野田彼氏いるの?」


泣き真似をしていた景子が瞳を輝かせ、今度はわたるの方に身を乗り出した。


「うちの話はいいから、真弓の話を先に聞けよ。あいつの今の彼氏、外人だよ」


「えー!」


「何それ、聞いてない」


景子と佑香が黄色い声を上げる。


先程の湿っぽい空気は既になくなっていた。


頬を膨らます真弓にわたるは勝ち誇ったような表情を浮かべる。


「うちの話が終わったら、わたるの番だからね!」


「あー、はいはい」


わたるが適当に真弓をあしらっていると、メインディッシュの肉料理と焼き立ての白パンが届いた。


こちらは鹿児島県産イベリコ豚のソテーにございます。


パンのおかわりは自由ですので、いつでもスタッフの方へ申して下さい。


「うん、なんかこの肉料理見てたら真弓の話っぽい感じする」


 ずっしりとしたイベリコ豚のソテーを見ながら呟いた景子の一声を聞いて、真弓は口を開いた。


「Once upon time……」


「日本語で喋れよー」


英語でふざける真弓に景子が笑いながら言う。


「はいはい。分かったよ。なんだったっけ?あ、そうだそうだ……」