Leben〜紫陽花の強い覚悟〜

「腕を挟まれたんじゃなかった?」


確か消防はそう言っていた筈。


書類を進める手を止め、会話に集中する。


『そっちはもう終わって原口ちゃんにヘリで戻って貰ってる。

急変しそうもないしね。

上腕まで巻き込まれてて呼吸が弱まってたから切断した。

救出まで時間がかかるみたいだったしね。

現場でもう1人患者が増えただけだよ』


なんの抑揚もなく切断と告げる。


現場で切断することや患者が増えること。


そんなことには慌てない。


予期せぬことが起こる、それが現場だから。


原口とは新人のフライトナース。


ヘリが戻る時はヘリから病院に向けて患者情報を知らせる。


もう離陸しているのなら詳細は届いている筈。


処置室へ向かいながら会話を続ける。


「TAE出来る?

動脈にカテーテルを挿入して出血源の動脈を閉塞させる方法。

それが1番だけど厳しそうなら開胸して出血箇所をクランプ。

処置が終わり次第すぐ搬送して。

私が引き継ぐから」






【クランプ】
出血してしまった血管を器具を用いて挟み、血管を遮ること。






【TAE】
緊急経カテーテル動脈塞栓術のこと。
腹腔内出血などの止血方法の1つで手術的操作による止血ではなく経皮的に動脈にカテーテルを挿入し、出血源となっている動脈を閉塞させる方法。






『ん、挿管は?』


「バイタルもしくはサチュレーションが落ちてきたら。

オペ室押さえておく、出来るだけ早く」


『任せなさい』


電話を切り、到着するヘリに備えていた看護師に指示する。


「今からへリで来る患者は近藤に」


「はいっ」


まずは1回目のヘリが到着した。


そしてまたヘリは現場に戻り、新たな患者を乗せて戻って来る。


「ヘリまもなく戻って来ます!」


「君、行くよ」


頼りにならないと思うけど。


「え?行くってどこにですか?」


「ヘリポート」


切断の患者は近藤に任せて、ヘリポートで神崎の戻りを待つ。


ヘリから神崎と共にストレッチャーに乗った患者が運ばれて来た。