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《レイside》



腕の中で、ルミナがトサ…、と意識を失う。



俺の頭の中では、ルミナの掠れるような声が何度も何度も繰り返されていた。



“…レ……イ……?”



彼女のその言葉を聞いた瞬間

どくん!と心臓が鈍く鳴った。



まるで、世界が終わったような絶望感が胸に込み上げる。



…俺の正体を…知られた…?



速いペースで心臓が音を立てる。



…俺は、ルミナに言えないことがたくさんある。



“真実”が、辛く、悲しいことだと知っているから。

君を守る存在のはずの“闇喰い”が、一番君を傷つけてしまうことを知っているから。



俺の正体を知ったら、きっと全てを話さなくてはいけなくなる。



…だから、近づきすぎてはいけないんだ。



ルミナは、俺の腕の中で小さく呼吸をしている。



…シルバーナの霧の作用で、きっとルミナの視界はぼやけていたはずだ。

まだ、バレたと決まったわけじゃない。



地下室に立ち込めていた霧が消え、だんだんとギルの姿に戻っていく。



…くそ…

もっと早く霧を吹き飛ばせていれば…。



俺は、ぶんぶんと頭を振って深呼吸をし

心を落ち着かせる。



とにかく、今は反省よりも、早くここから逃げないと…。




俺がルミナを抱き上げて、階段を上ろうとした

その時だった。




「!ギル!嬢ちゃんは無事か?!」




階段の上から、ロディが顔を出した。



俺は、相棒の顔を見て少しほっとして

階段を上りながら答える。



「大丈夫、気を失ってるだけだ。シルバーナとも決着をつけた。

…タリズマンの方は、どうなってる?」



すると、ロディはニヤリ、と笑って艶のある声で答えた。



「そっちも心配ない。

今は“偽ギル”がタリズマンを引きつけて、街中を走り回ってることだろう。」



…相変わらず容赦ないな。

偽ギルを囮にさせたのか?



まぁ、あれだけ顔も体型も似てないんだ。

街角で服でも変えれば、すぐにタリズマンを撒けるだろ。



「なぁ…、ロディ。」


「ん?どうした。」



俺は、ロディの隣に並んで呟いた。



「俺、ルミナに正体がバレたかもしれない」



その瞬間

ロディの顔がこわばった。



…口を開かなくても、ロディの思っていることがわかる。



“このバカ…!ついに、やらかしたか!

浮かれて調子乗ってるからだ、ボケ!”



俺は、視線を落としながら言葉を続ける。



「シルバーナに魔力を奪われて、レイの姿に戻っちまったんだ。

…だけど完全に姿を見られたのは、ルミナが気を失う寸前だった。」




ロディが、眉間にシワを寄せて呟いた。




「…嬢ちゃんが夢だと思ってくれることを祈るだけだな。」




俺は、小さく頷いてルミナを抱き上げたまま歩き出した。



こうして、散々な社交パーティの幕は閉じたのである。



《レイside終》