俺が、文字の配列を読み始めた

次の瞬間だった。



背後で、何者かが呼吸をしたような気配がした。



はっ!として後ろを振り向くと

そこには外套を着た男の姿。



俺に向かって金属の棒を振りかざしている。




「っ!」




俺めがけて降り下ろされる金属の棒を紙一重で避ける。



標的が軌道から消えた金属の棒は

俺の代わりに“警備装置”をすごい勢いで叩きつけた。



ドガッ!!



大きな音が部屋に響くが、“警備装置”は何事もないように動き続ける。



…さすが最新鋭の機械…。

あれだけ叩かれて、ビクともしないとは。



『!おい、ロディ?!

何があった!大丈夫か!!』



スピーカーの向こうから、焦ったようなレイの声が聞こえる。



俺は外套を着た男へ目をやりながら答えた。




「背後から襲われただけだ。怪我はない。

…やっと“偽ギル”のお出ましだ。」



『え…!』



俺の言葉に、外套を着た男が俺の方へ顔を向けた。



俺を襲った男…

そいつこそ、俺と嬢ちゃんが探し続けていた“偽ギル”だった。



目の前には、シルバーナさんに見せてもらった写真と全く同じ男性が立っている。



先ほどの一撃を避けられるとは思ってなかったんだろう。

奴は、ひどく動揺して俺を見つめていた。



俺は、携帯のスピーカーをオンにして会話をレイに流しながら

偽ギルに向かって口を開く。




「…危ねぇなぁ。

俺と喧嘩する気か…?」




偽ギルは、びくっ!と体を震わせ

ぎゅっ!と金属の棒を握りしめて答える。




「俺は、“機械に近づく奴は全員始末しろ”って言われてるんだ。

…お前には、ここで消えてもらう…っ!」




偽ギルは、再び俺に向かって金属の棒を振り上げると、大声をあげながら襲いかかってきた。



…面倒くせぇな…。



俺は攻撃をかわすと、ひらり、と偽ギルの背後へと回りこむ。



驚き、焦る偽ギルに

俺は低く呟いて、奴の腕を掴んだ。



「…うるせぇ、寝ろ。」



ゴキッ!



「ぎゃあっ!」



ガッ!と腕を締め上げ、さらに足をすくって床に転がす。



偽ギルは呆気なく倒れこみ

肩に手を当てて苦痛の声を上げた。



「肩外したくらいで、ぎゃーぎゃー騒ぐな。

意識飛ばさなかっただけでもありがたく思え。」



低くドスの利いた俺の声に

偽ギルは、ひいっ!と床を這って後ずさりをした。



手に持っていた携帯からは、レイの沈黙が流れている。



俺は、泣きそうになっている偽ギルに歩み寄り、すっ、としゃがみ込んだ。



低い声で視線を逸らさず、口を開く。



「…お前、魔法が使えないくせにダウトの仲間なのか?

パーティ会場に闇が入り込んだのも、お前の仕業だな?」