私は、ぞくり!と体に震えが走る。



あの黒マントは“ダウト”だ。

もし私の存在に気付かれたら、“シン”を狙いに来るに決まってる…!



その時

険しい顔をしたロディが、シルバーナさんに向かって口を開いた。



「…この様子じゃあ、安易に外に逃げるのも危険だ。

どこか、この屋敷に身を隠せる場所はあるか?」



その言葉に、シルバーナさんは真剣な顔で考え込み、記憶を辿るように答える。



「確か、屋敷には隠し通路から行ける地下室があったはずですわ。

そこなら、闇が入って来れないかもしれません。」



すると

それを聞いたロディは小さく唇を結び、何かを考え込むように黙る。



そして少しの沈黙の後、意思を固めたように顔を上げた。



ロディは、すっ、と私の肩を抱く。



えっ…!



私が驚いてロディを見上げると

彼はまっすぐシルバーナさんを見つめて口を開いた。



「俺が闇を引き付けてる間に、嬢ちゃんを安全な場所へ連れて行って欲しい。

…シルバーナさん、あんたに頼めるか?」



…!

ロディ、まさか一人で闇と戦うつもり…?!



すると、私の心中を察したように

ロディが不敵な笑みを浮かべて囁いた。



「…大丈夫だ。ギル専属の情報屋をやってきて、闇と戦うのには慣れてる。

魔法が使えなくても、戦い方はいくらでもあるさ。」






こんな時にまで余裕の笑みなんて

ロディって一体、何者なの?



その時

ロディが私の背中をトン、と押した。



私はそのまま、シルバーナさんの方へと足を出す。




「行け、嬢ちゃん。

俺のことは心配いらない。」




私は、はっ!としてロディを見つめた。




…ロディは、私を守ろうとしてくれてる。



ここに残ったとしても、私に戦える力はない。

今は、ロディを信じて言う通りにしよう…!



私は、心を決めて頷くと

スーツを翻して走っていくロディに向かって叫んだ。



「気をつけて…!

絶対、一緒に酒場に帰ろう!」



ロディは、私に答えるように、ひらりと手を振ると

闇を追って会場の奥につながる廊下へと消えていった。



「さぁ、行きましょうルミナさん。

闇がこちらに来る前に…!」



私は、心を支配していく恐怖を必死で振り払いながらロディの向かった廊下に背を向け

シルバーナさんと共に地下室へと駆け出したのだった。