すると、ロディが少し焦ったような声で私に耳打ちした。



「…嬢ちゃんに宿るシンの魔力は、ラドリーさんによって完全に封印されている。

大丈夫だ、“嬢ちゃんの方は”心配いらない」



…ほっ。


私は安心して胸をなでおろす。



しかし、ロディの顔は険しいままだ。



その視線は、まっすぐレイの背中に向いている。




……?




私が、視線の意味に気づかずに、ちらちらと二人を見つめていると

レイが、さっ、と顔を伏せて小さく口を開いた。




「……悪ぃ、急用思い出した。

モートンに呼ばれてたんだ。」



「えっ?!」




私は驚いて、つい大きな声を上げた。



“急用”……?!



あんなに、車の中でも“偽ギルに会うまで帰らない”的なオーラを出してたのに?


散々、パーティの事で暴言吐いて、参加する気満々だったのに?



レイは、状況を飲み込めない私をよそに

くるり、と門から背を向けて私とすれ違う。



…!

レイ、帰っちゃうの…?!



すると、レイはロディの横でピタリ、止まり

小さくロディに耳打ちした。




「…闇が入れないならダウトも襲ってこないだろ。俺の代わりに、偽ギルとケリをつけてくれ。

…ルミナを頼んだぞ。」



「……あぁ。」




二人の会話は、声が小さくて聞こえない。


…レイ、本気でモートンの元へ向かうつもり…?



去っていこうとするレイの背中に、私は大きな声で語りかけた。



「レイ、本当にパーティに出ないの…?!」



すると、レイは小さく振り返って私を見た。


その横顔からは、不機嫌というよりも、何かもっと複雑な感情を感じさせた。




「ルミナはロディと楽しんでこい。

…でも、調子乗って料理を食いまくるんじゃねーぞ。ブタになっても知らねぇからな」



っ!


いつもと変わらない悪態に、私は少しほっ、とする。



…なんだろう。

どこか、いつものレイと違う気がしたのは、気のせいだったのかな…?




その時、ロディが、ぽん、と私の肩に手を乗せた。


そして、見上げる私にいつもと変わらない声で言う。



「レイのことは気にしなくていい。

…さ、せっかくのパーティだ。俺も情報収集やめて近くにいてやるから、安心しな。」



…!



私は、ロディの言葉に、こくん、と頷くと

レイのことが引っかかりながらも、大きな門をくぐって屋敷へと向かった。



…そして。



どこか不安な気持ちを抱えたまま

私にとって人生で初めての社交パーティの幕が開けたのだった。