「ふぅ…。

これでよし…、と。」



離れに戻った私は、家から運んできた荷物の入った段ボールを整理し、部屋の片付けをしていた。



なんとか終わったかな…。



レイに新しいものを用意してもらうのは申し訳ないと思って、必要最低限のものは持ってきた。

…私の持ち物は主に着替えとかだけだから、布団とか買ってもらっちゃったけど…。



時計を見ると、針は午後七時を指している。



…いつもなら酒場が開いている時間だけど

レイは、“今日は用事が出来たから、酒場を休みにする”って言ってたな…。


用事って、いったい何なんだろう?




その時

ふと机に飾った写真に目が止まった。



それは、幼い頃の私と両親が写っている写真。



私は、写真を手に取って眺めた。



…この頃は、一人になって酒場で暮らすなんて想像してもなかったな…。



…お父さんは、この頃から“名もなき魔法”の研究をしていたのかな。



その時、私の頭の中にギルの顔が浮かんだ。



…ギルは、いつからお父さんの知り合いなんだろう?

夜しか会ったことないから、昼間のギルが何をしてるかなんてわからない。



…ギルって、本当に彼女とかいないのかな?


私の頭の中に、昼間のシルバーナさんの声が響く。



“私は、“ギルの彼女”です。”




「…はぁ…。」




つい、ため息がこぼれた。



シルバーナさんの言葉を聞いた時

無意識に、ショックを受けた自分がいた。



私は、カーペットの上に座り込んで考える。



…ギルは私より年上だし、彼女がいたって、おかしくない。

あんなにかっこよくて、優しいギルを好きになる人がいない方がおかしい。



…私が、ギルのことでショックを受けてることの方が、おかしいよね…。



私は、ぶんぶんと頭を振って考えを払うと

段ボールから出した“握力グリップ”を握りしめて、覚悟を決めた。



…ギルに頼ってばかりじゃダメだ。

私も、少しは闇に抵抗できるように強くならなくちゃ…!


密かに体を鍛え始めようかな。

体力作りで、走り込みとかもしてみよう。



…と、まずは握力から………





「…何してんだ、お前。」


「っ?!!」




急に背後から声が聞こえ

私は、ばっ!と振り向いた。


とっさに握力グリップを背中に隠す。



すると、扉にもたれかかるように腕組みをしたレイが、怪訝な顔で私を見ている。


私が動揺してまばたきをしていると、レイは表情を変えずに口を開いた。



「何度か声をかけたんだけど。

…その後ろに隠してんのは何?」



「!こ…これは、握力………」



「握力?」



!!