どくん…!
ミラさんの威圧感に私は彼女から目が離せない。
まさか、この前の時計台でのことを聞きに来たの…?
緊張しつつ彼女の言葉を待っていると
ミラさんは私に思いもよらぬ質問をした。
「昨日の午後十時頃、どこで何をしていましたか?」
ミラさんの問いかけに、私は少し驚いて目を見開く。
…“昨日の午後十時頃”…?
てっきり、この前のことを聞かれるのかと思ってた…。
私は、おずおずと答える。
「その時間なら、ちょうど酒場の離れにいました。」
すると、ミラさんは即座に言葉を続けた。
「それを証明できる人はいますか?」
…!
すると、私たちの会話を聞いていたレイが、警戒するような声でミラさんに言った。
「離れから外に出るには、酒場を通るしかない。酒場には俺とロディがいたけど、ルミナは来なかった。
…俺とロディが証人だ。」
その時、ガロア警部がレイを見ながら口を開いた。
「レイと情報屋にも同じ質問をするが…
本当に酒場にいたんだな?」
ロディはタバコを口へ運びながら、さらり、と答える。
「あぁ。昨日は酒場から出てない。
ガロア警部が言う時間には、ちょうど常連の客も来ていたはずだ。俺たちと嬢ちゃんのアリバイを証明してくれるだろう。」
すると、それを聞いたミラさんは、すっ、と私から離れ
ガロア警部の隣に並んで口を開いた。
「そうですか。
それを聞ければ十分です。急に訪ねてすみませんでした。」
ロディは、ミラさんに探りを入れるように
「何か調べてるのか?」と、尋ねる。
私が、ミラさんの方へと視線を向けると、彼女は表情を変えずに鋭い目つきで答えた。
「実は昨日の夜、サンクヘレナの郊外にギルが現れまして。」
!!
その言葉に、酒場の空気が変わった。
レイもロディも、険しい顔つきでタリズマンを見つめる。
ガロア警部がミラさんに続いて言った。
「ルミナさんと情報屋は、この前の時計台の件から、ギルの仲間なんじゃないかって少し疑っていたからな。
…まぁ、これでお前達への疑いは晴れたわけだ!」
豪快に笑うガロア警部に、私は、ふうっ、と息を吐く。
…良かった…ギルのことがバレなくて…。
しかし、そのすぐ後。
ガロア警部は明るい笑顔とは正反対の真剣な顔つきで、私たちを見ながら言った。
「本当に、ギルと関わりがなくてよかったよ
闇喰いだろうと、“悪は悪”だからな。」
ぞくっ!
信念を宿したような低い声に、私は体が震えた。
…この人は、本気でギルを“悪”だと思って、捕まえようとしてるんだ。
ギルは、本当は誰よりも優しい人なのに。
しかし、ここで反論してしまうと、せっかく晴れた疑いがまたかかってしまう。
私は、ぐっ!と言葉を飲み込んだ。