ピチチチ…


気持ちのいい昼下がり。


酒場で暮らし始めて三日がたった。



私は、お昼のうちに酒場の掃除と、その他にレイから頼まれた仕事をする。



さすがに子どもの私は酒場では働けないので夜の間はレイだけが働き、私は離れで過ごした。



カウンターを布巾で拭いていると、ソファに座って黒いパソコンと対峙しているロディが目に入った。



長い指が、タバコを口元へと運ぶ。


ふー、と軽く煙を吐いて、カタカタと真っ黒なパソコンを操作するその慣れた仕草は

つい目を奪われるほど格好良く、どこか色っぽい。



…ロディは、レイよりも年上なんだよね…?



ギル専属の情報屋だけど、主人のギルよりも年上のような気がする。



クールで、大人で…

ロディの側には常にタバコと真っ黒なパソコン。



そぉっ、と近づいて画面をちらり、と覗いてみると、見たこともない文字が並んでいる。




……暗号?

見られてもいいように、他の国の言葉を使っているのかな…?




すると、私の視線に気づいたロディが、タバコを灰皿へと押し付けて口を開いた。



「悪いな。…タバコの煙、気になるか?」


「あ、いや…そういうわけじゃ…。」




私が慌てて否定をすると、ロディは私を見て続けた。




「…何だ?ギルの情報が欲しいのか?」



…!

ギルの情報…。



もらえるなら聞いてみたいけど…

ロディが私に情報を流してくれないのは知っている。



私は布巾を、きゅっ、と握りしめながらロディに答えた。




「…ロディって、謎な人だなぁって思って」



「なんだ、俺の情報か?

……別に面白いもんでもないぞ?」




ロディは私の言葉に、ふっ、と笑みを浮かべ

そのままはぐらかすようにパソコンへと向き直った。



私は、ロディの低く艶のある声に、少し緊張してしまう。




…一体、何者なんだろう…?



魔法が使えないってことは教えてもらったけど…

それ以外の素性は全くの謎だ。



…私は、レイのこともまだよく知らない。


私の周りには謎な人ばかりだ。



と、その時。

酒場の奥から腰にエプロンをつけたレイが出てきた。



「ルミナ、掃除は終わったか?」


「!うん。全部拭き終わったよ。」



レイは、相変わらず、にこり、ともせずに、カウンターでグラスを拭き始める。

そして、私に向かって尋ねた。



「もう生活に必要なものは全部、家から離れに運び終わったんだよな?」


「うん。家に残ってた食材も全部持ってきたよ。」