っ!



悪魔のような低い声に変わったレイに、私はびくっ!と身震いする。



た…確かに、住まわせてもらう以上、仕事をしなくちゃと思ってはいたけど…



私がそう答えようとすると、レイが感情を悟らせない声で私に言った。



『もし、俺が酒場に復帰した時にホコリ一つでも残っててみろ……。

洗濯と皿洗いに、俺の肩たたき、近所の犬の散歩まで追加するからな。』



!!



肩たたきに犬の散歩まで?!


それって仕事じゃなくて、雑用なんじゃ…



『わかったら、黙って働きやがれ。』



ブツ!!



悪魔の声が聞こえた瞬間

私が答える間もなく電話が切られた。



…………。



ツー、ツー、ツー



無機質な機械音が聞こえる。


その時、私の心の中に

ある一つの答えが浮かんだ。



“レイがギルなはずがない。”



やっぱり、レイはギルとは別人だ。


ギルは私にレイのような喋り方は決してしないし

第一、レイは魔法が使えないんだ。



………同一人物なわけがない。



私は、どこかすっきりとした気持ちでロディにケータイを手渡した。


すると、ロディがふっ、と微笑んで私を見つめる。


そして、くるり、と私に背を向けると、小さく振り返って口を開いた。



「…レイがうっとおしくなったら俺にすぐ言いな。俺はギルの情報屋だが、レイの見張り役でもあるからな。

…これから、よろしくな。」



「…!……うん!

ロディ、こちらこそよろしくね…!」



ロディは、私の答えに小さく頷くと

前を向いて、独り言のように言った。



「…そうだ。

新居に連れてく前に、カーテン買わなきゃな。」



……え?



ロディは、おかしそうに笑いながら歩き出した。


サァ…、と爽やかな風が辺りを吹き抜ける。



「……行くぞ、嬢ちゃん。」



「うん!」



私は、ロディの背中を追いかけ

一歩、足を踏み出した。



ここから、酒場での新たな生活が始まったのです。



第1章*完