すると、ギルは、よろよろと立ち上がって、口を開いた。
「僕は…このまま…モートンの所へいく…。
彼の“治癒魔法”なら…千歳草よりも…効きがいい。」
!
…モートンの魔法で、傷が治せるの…?
私は、今にも倒れそうなギルを支える。
ギルは、顔を歪めながら弱々しく微笑んで
私に向かって優しく言った。
「ごめん…ルミナ。
…酒場まで…送ってあげられなくて…。」
「私のことなんていいの…!
ギル、早くモートンの所へ行って…!」
ギルは、すっ、と私から離れると
パァッ!と瞳を輝かせた。
その瞬間、ギルの体が光に包まれる。
そして、ギルの体が見えなくなる直前、優しい声が私に届いた。
「…心配しないで。
必ず僕は…ルミナの元に帰るから…!」
「…!」
私が、はっ、と呼吸をした瞬間
ブワッ!と風に吹かれるように、ギルを包んだ光が飛んでいった。
私は、ぎゅっ、と両手を握り締めながら
ギルの消えていった夜空をずっと見つめていたのだった。
****
私はギルと別れた後
心がここにないような気分でどうしても落ち着くことが出来なかった。
…ギル、ひどい怪我だった。
あのままこの世からいなくなってしまったらどうしよう…!
消えない不安がぐるぐると頭の中に渦巻いて私は街を歩き続けた。
…!
そして、はっ!と気がつくと
私は街の裏通りへと来ていた。
目の前には、少し古い、赤い屋根の店。
…無意識に酒場まで来ちゃったんだ…。
私はその時、ふとロディの顔が頭に浮かぶ。
ロディ…あれからどうしたんだろう。
タリズマンに捕まってたりしないよね…?
どくん、と心臓が鈍く鳴った。
…レイなら、ロディに連絡出来るかな…?
頼めば、モートンの所へも連れて行ってくれるかもしれない。
私は、ごくり、と喉を鳴らして酒場の扉へと手を伸ばした。
キィ……。
軋んだ音を立てて、酒場の扉が開いた。
…鍵はかかってない…。
レイ、店の中にいるのかな…?
恐る恐る中へ足を踏み入れると、そこには誰もいなかった。
…明かりも付いていない。
誰もいないの……?



