ギルは、仮面のような微笑みを浮かべた後、何も言わなかった。
そして、何事もなかったかのようなポーカーフェイスに戻ると、そのまま歩き続ける。
すぅっ…、と雲が、月を覆い隠す。
その時、目の前に石造りの道が現れた。
…森を抜けたんだ…。
静まり返った街は、ただどこか寂しそうに、夜の顔をしている。
私は、ギルの横に並んで歩いた。
その時、ギルが小さく口を開く。
「…僕は、間違ったやり方を躊躇なく選べるようになってしまった。」
そして、初めて私の方を見た。
「だから、ルミナ。
君は、こちら側に来てはダメだ。」
…!
“必要以上に、近づくな”
“僕のことは、忘れて”
ギルの思いが、ひしひしと伝わってくる。
…ギルは、私を傷つけまいと、一人でずっと戦ってきてくれた。
そんなギルに、私は何を返せるだろう?
一人平和な世界で暮らすなんて…ダメだ。
ギルに甘えるわけにはいかない…!
その時、ギルがふと立ち止まった。
私もつられるように立ち止まると、
ギルはまっすぐ私を見つめた。
どきん…!
胸が大きく音を立てた。
「それと……これだけは覚えといて。」
ギルの綺麗な薔薇色の瞳が
私をまっすぐとらえる。
そして、ギルは少しの沈黙の後
視線を逸らさず、低く言い放った。
「僕はルミナの味方だけど、悪いヤツだよ」
「!」
ザァッ!
風が辺りを吹き抜けて、雲に隠れていた月がまるで心の闇を暴くように
レンガの壁に、ギルの色濃い影を映し出した。
影に意思などあるはずないのに
ギルの影は闇を増して、今にも私の影を飲み込みそうだ。
私が声を出せずにいると、ギルは低い声で続けた。
「“闇喰いギル”は、君の思い描くようなヒーローなんかじゃない。
…だから…………」
その時、月明かりに照らされたギルの影が、かすかに揺らめいた。
「僕のしていることで、ルミナが責任を感じる必要はないんだよ。」
「…!」
最後の声が、私の胸に優しく響いた。
その声は、自分を“悪”だといった人のものとは思えなかった。
…それは、私に気を使わせないための
優しい嘘だと思った。



