私がギルに掴まったままパチパチとまばたきをしていると、窓から見覚えのある漆黒の髪の青年が顔を出した。

青年は、くわえているタバコを長い指で挟み口から離すと、ギルに向かって口を開く。


「おい、ギル。闇ごときに何モタついてんだ!タリズマンに嗅ぎ付けられるなんて、お前らしくもない……」


藍色の瞳が、月明かりをキラリと反射した。

整った顔立ちに、私は、はっ!と息をのむ。


「ロディ……!?」


私が驚いて声を上げると、私がいることに気がついたロディがかすかに目を見開いた。


「嬢ちゃん…?!なぜここに……」


ロディはそう言いかけたが、鋭い視線をミラー越しに闇たちに向けて口を閉ざした。

そして、タバコを灰皿に押し付けると、後部座席に視線を向けて早口で言った。


「まぁ、詳しい話は後だ。二人とも、早く飛び乗れ!」


ギルは、ロディの言葉を聞いて小さく頷くと、ふわりと私を抱き抱えた。


「っえ!?」


私は驚いて、無意識に顔が赤くなる。

ギルが、ぱぁっ!と瞳を輝かせると、自然に車のドアが開いた。

ギルは私を優しく奥の座席に座らせると、自分も素早く乗り込みドアを閉めた。


その瞬間、ロディは強くアクセルを踏み込み、私たちを乗せた赤い車はものすごいスピードで時計台から走り去って行ったのだった。