その場の空気が、ガラリと変わった。
私も足が魔法で固まってしまったかのようにその場から動けない。
ギルは、私への注意を続けながら距離を取り闇に向かって鋭い視線を向ける。
その時、闇の大群の中の一人が意を決したようにギルに向かって襲いかかった。
それをきっかけに、私たちの周りを取り囲む闇たちも一斉に動き出す。
「ギル!」
私が彼の名前を叫んだ瞬間
ギルが魔法で作った刃を闇に向かって放出した。
あれは、“攻撃魔法”…!
以前見た闇魔法とは違う、ギルの魔法だ。
『ぎゃぁぁあっ!』
黒いマントを切り裂くように、ギルの刃は次々と闇たちを倒していく。
すごい…!
たった一人で、三十人はいる闇たちを倒すなんて…!
見ると、地面に倒れた闇たちは荒く息をしている。
ギルは、命を奪っていない。
ほっとして呼吸をすると、背後に人の気配がした。
とっさに後ろを振り向くと、黒マントたちが私めがけて襲いかかろうとしていた。
『今だ!この娘だけでも捕まえるぞ!』
びくっ!と体が恐怖で震えて、声を失う。
ま…まずい!
逃げられない…っ!
私が腕で必死に抵抗しようとしたその時だった。
ぐいっ!と肩を引かれ、後ろへと体が動いたと同時に、ギルがそのまま私の前へと飛び出して、闇たちに向かって薔薇色の瞳を鈍く輝かせた。
私は、その光景が頭の中の昨日の記憶と一致する。
あの瞳の色は…
禁忌の闇魔法を使った時と同じ………!
ピピ────ッ!
笛らしき音が聞こえ、その場にいた全員の動きが止まる。
その瞬間、パッ!!と、まぶしくて目を覆うほどの強いライトの光が、時計台の下にいる私たちを照らした。
「がーっはっはっ!楽しそうなケンカをしてるじゃねぇか!俺たちも混ぜてくれよ!」
突然、光が放たれる方向から、大きく野太い男性の声が聞こえた。
それに続くように、芯のある冷静な女性の声が響いた。
「ガロア警部、これはケンカじゃありません。たまにはふざけてないで、ちゃんと仕事をしてください」
「わかってるって、ミラ。今日こそ、ギルをとっ捕まえてやる!」



