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午後七時五十ニ分。
約束の時間まであと十分を切った。
私は、街の中心部から少し離れた時計台へと向かって走る。
闇たちは瞬間移動の魔法を使って国中を移動出来るんだろうけど、人間の私はそうはいかない。
私の家から離れた場所にある時計台に到着するまで、結構時間がかかってしまった。
どうにか時間には間に合ったけど…レイ、もう来てるよね…?
荒く呼吸をしながら時計台へと続く石造りの道を進む。
淡い月明かりと道の傍に並ぶランプが、まるで私を導くように地面を照らしていた。
レイに早く会わなきゃ…!
逃げる時間がなくなっちゃう…!
大きな文字盤と、レンガ造りの塔が見えてきた。
はぁっ!と息を吐いて、重りをつけたように感じる足を運ぶと、時計台の下に一つの人影が見えた。
よかった!レイだ……!
しかし近づいた瞬間、私の足が自然と止まった。
月明かりに照らされるその人影に、目が釘付けになる。
そこにいるのは銀髪の青年のはずだった。
しかし、風になびく髪は輝く黄金の髪だ。
呼吸を忘れ、立ち止まる。
その時、綺麗な薔薇色の瞳が私をとらえた。
「ルミナ…?」
「…ギル?」
私たちの間を、強い風が吹き抜ける。
ギルは、驚いたように目を見開いてまばたきをした。
「…もう、会わないつもりだったのにな」
無意識に漏れたような声で、ギルがぽつりと呟いた。
「どうして、君がここに……?」
そう続けたギルに、私は動揺しながら答える。
「夕方、闇が“今夜八時、時計台”で集まるって言っているのを聞いたの。レイも同じ時間、同じ場所で友達と会う約束をしていたから、鉢合わせしたら大変だと思って………」
ギルは、私の言葉の代弁をするように口を開いた。
「レイを闇から助けるために…危険をかえりみず、ここに来たってことか…?」
私はぎこちなく、こくんと頷いた。
ギルはそれを見て少し険しい顔をした後、私に向かって歩み寄った。
ギルの黄金の髪と外套が風になびく。
ギルは私の目の前に来ると、優しく私の頭に手を乗せた。
サラ…、と私の髪が頬を撫でる。



