闇喰いに魔法のキス



****


午後七時五十ニ分。

約束の時間まであと十分を切った。


私は、街の中心部から少し離れた時計台へと向かって走る。


闇たちは瞬間移動の魔法を使って国中を移動出来るんだろうけど、人間の私はそうはいかない。

私の家から離れた場所にある時計台に到着するまで、結構時間がかかってしまった。


どうにか時間には間に合ったけど…レイ、もう来てるよね…?


荒く呼吸をしながら時計台へと続く石造りの道を進む。

淡い月明かりと道の傍に並ぶランプが、まるで私を導くように地面を照らしていた。


レイに早く会わなきゃ…!

逃げる時間がなくなっちゃう…!


大きな文字盤と、レンガ造りの塔が見えてきた。


はぁっ!と息を吐いて、重りをつけたように感じる足を運ぶと、時計台の下に一つの人影が見えた。


よかった!レイだ……!


しかし近づいた瞬間、私の足が自然と止まった。


月明かりに照らされるその人影に、目が釘付けになる。

そこにいるのは銀髪の青年のはずだった。

しかし、風になびく髪は輝く黄金の髪だ。


呼吸を忘れ、立ち止まる。


その時、綺麗な薔薇色の瞳が私をとらえた。


「ルミナ…?」

「…ギル?」


私たちの間を、強い風が吹き抜ける。

ギルは、驚いたように目を見開いてまばたきをした。


「…もう、会わないつもりだったのにな」


無意識に漏れたような声で、ギルがぽつりと呟いた。


「どうして、君がここに……?」


そう続けたギルに、私は動揺しながら答える。


「夕方、闇が“今夜八時、時計台”で集まるって言っているのを聞いたの。レイも同じ時間、同じ場所で友達と会う約束をしていたから、鉢合わせしたら大変だと思って………」


ギルは、私の言葉の代弁をするように口を開いた。


「レイを闇から助けるために…危険をかえりみず、ここに来たってことか…?」


私はぎこちなく、こくんと頷いた。

ギルはそれを見て少し険しい顔をした後、私に向かって歩み寄った。

ギルの黄金の髪と外套が風になびく。


ギルは私の目の前に来ると、優しく私の頭に手を乗せた。

サラ…、と私の髪が頬を撫でる。