家までは本当にあと少しの距離だし、レイの時間をこれ以上もらうわけにはいかない。
モートンのところにも連れて行ってもらったから、酒場を出てから、もうだいぶ時間が経っているし…。
すると、レイはまばたきをして私を見つめ、少し迷いながらくるりと私に背を向けて言った。
「わかった。気をつけて帰れな。もう会うこともないだろうけど…怪我早く治せよ?」
「うん。いろいろありがとう…!」
レイは小さく頷くと、そのままもと来た道を歩いて行った。
最後までレイの笑った顔を見なかったな。
レイの遠ざかる背中を見つめながら、ふとそんなことを考える。
ギルには会えなかったけど、いろんな出会いがあったなぁ…。
みんなお父さんの知り合いだったってことが驚きだけど。
私は、頭の中で今日の出来事を思い返しながら街を歩く。
明日からまたギルを探そう。
私の知らないところで、一体何が起こっていたのか、ちゃんと教えてもらわなくちゃ…!
私がふぅ、と深呼吸をして、家の近くの路地を曲がった、その時だった。
『おい、あの小娘はいたか?』
『いや、家にはいないようだ。…ったく、どこに姿を消したんだか…!』
路地の奥で、黒マントを着た二人組がこちらに向かってくるのが見えた。
あれは、闇……?!
まさか、昨日私を襲った奴ら…?
きょろきょろと辺りを見回しながら話している。
もしかして、私を探しに来たの…?!
どくん!と心臓が鈍く鳴った。
とっさに、近くの路地の隙間に走り込む。
ごみ捨て場の脇に身を隠した私は、こっそり闇の様子をうかがった。
『早くあの小娘からシンのありかを聞きださないと、リオネロ様が怒るからなぁ』
『あぁ。ぶっちゃけ、リオネロ様は“ダウト”の幹部の中でも下っ端…。早く手柄を立てたいんだろう』
“ダウト”…?
闇の組織の名前…?
リオネロの他にも、まだ幹部がいるってこと?
彼らの会話に聞き耳を立てていると、闇たちは、はっ!と何かを思いだしたような仕草を見せた。
『そうだ!今夜、リオネロ様が闇を集めて、あの小娘の捜索を始めるって言ってたな』
『そうだそうだ。大人数で探せば、シンも見つかるかもしれん』