「レイ!忘れ物、ない?」


「ん、大丈夫。手ぶらだから。」



翌日。


私は、レイと二人っきりで酒場にいた。


今日、レイは魔力を失う。


昨日、夜遅くまで手続きや書類の作成をしなくてはいけなかったため

魔力の剥奪は今日に引き伸ばされたのだ。



結局、ロディはタリズマン専属の情報屋となり、ミラさんの“同僚”になるようだ。


モートンは、ログハウスの闇よけの結界を解き、さっそく、タリズマンの研究員たちと魔法書の解読を始めたらしい。


ルオンは、“タリズマンの監視下に置く”ためこれからもモートンのログハウスで暮らすことになった。


ルオンは一人暮らしをしたがってとても嫌がっていたけど、レイと話して、しぶしぶ条件を呑んだようだ。



…ルオンは、今日、魔法使いじゃなくなる。


レイも…二度と魔法を使えなくなるんだ。


二人は、魔法使いの血のせいで心と体に深い傷を負った。


そう考えると、この処刑は兄弟にとって過去と決別できるいいキッカケなのかもしれない。



私が、レイを見つめていると

レイは、すっ、と私に歩み寄った。



私がまばたきをした瞬間

レイが、優しく私を抱きしめた。



…ぎゅ……。







はっ、と呼吸をすると

レイは私の耳元で小さく言った。



「…じゃあ、行ってくる。」



…!


穏やかなその声に

私は少し安心してレイの肩に顔をうずめた。



「レイ…。」


「…ん?」



耳元で聞こえるレイの声に、私ははっきりと答えた。



「私が出会ったのは、“魔法の使えないレイ”
だから。

…その時のレイに戻るだけ。何も変わらないよ。」



「…!」



レイは、小さく笑って私を抱きしめる腕に力を入れた。


そして、レイは、私の耳元で囁く。



「…そんなこと言って、いいのかよ?」



「え…?」



「俺が完全に“レイ”になれば、“ギル”みたいに優しくなんかしてやんねーぞ。」



!!