****



───キィ



午後十一時。


レイが考えてくれた全てのデートプランを終え、私たちは酒場に帰って来た。


もう辺りは真っ暗で、月も雲で隠れて見えない。


レイと別れ、部屋へと戻り荷物を置き

私はすぐにお風呂に入った。


シャワーを浴び終え、着替えてベッドに横になると

今日のデートの記憶が頭の中に鮮明に浮かび上がってくる。



…デート、終わっちゃった。



急に喪失感に襲われた。


今日は、今まで生きてきた中で一番速く時が流れた気がする。


私は、同居を始めた時にレイに買ってもらったピンクのクッションを、ぎゅうっ、と抱きしめた。



と、その時。

部屋の扉の向こうから、小さな音が聞こえてきた。



…コンコン






私は、ばっ!と起き上がる。





レイ…?



トッ、とベッドから降り、私は部屋の扉を開けた。


すると、そこにはお風呂上がりで少し髪の濡れているレイがいた。



どくん…!



昼間よりも色気が漂うその姿に、私の胸は大きく音を立てる。



「レイ、どうしたの…?」



私が、緊張を悟られぬようにレイに尋ねると

レイは少しの沈黙の後、私をまっすぐ見つめて口を開いた。



「ルミナ。俺の部屋に来て。

…今日は、一緒に寝ようぜ。」



「えっ?!!!!」



一瞬、思考が停止した。


レイの爆弾発言の意味を理解した瞬間

私は、かぁっ!と頬を染めて、つい、夜中なのに叫ぶ。



「れ、れれれ、レイ、何言って……!!」



すると、激しく動揺する私に、レイは静かな声で言った。



「誤解すんな。本当に一緒に“眠る”だけだ。変なことはしない。

今日はデートが終わるまで、ずっと一緒にいようって言ったろ?まだ日付は変わってないから、デートは終わってない。」



…っ!


そ、それは理屈としてまかり通るの…?



少し落ち着いた私を見たレイは、私を見つめたまま、甘い声で囁いた。



「……嫌か?」



!!


私は、首を横に振ることしかできなかった。



…緊張するけど、嫌じゃ…ない……



すると、緊張で何も言えない私の心の中を見透かしたように

レイは私の手を優しく握って歩き出した。



…!



私の心の中に、甘い熱が蘇ってくる。


いきなりの展開について行けてない部分もあるが、そんな戸惑いを凌駕するほどの熱に、抗えるほどの気力はなかった。


トントントン、と階段を上り

レイの部屋へと続く廊下を進む。



…前にここを歩いたのは、レイを最初にギルだと疑った夜だったな。



と、そんなことを考えているうちに

廊下の突き当たりまで来てしまった。


レイは、ガチャ…、と部屋の扉を開ける。



キィ…



開かれた扉の向こうに一歩足を踏み入れると

ふわっ、と落ち着くいい匂いが私を包んだ。



…大好きな、レイの匂いだ。



ぎこちなく周りを見回すと、レイの部屋は木でできた家具が並ぶ、落ち着いた雰囲気の綺麗な部屋だった。


ぱちぱち、とまばたきをしていると

レイが、すっ、と手を離した。


そして、私に向かって小さく尋ねる。



「…戻りたくなった?」


「!……そんなこと、ないよ…!」



今さら、戻ろうなんて思えない。


言われた時は戸惑ったけど

本当は私だって、レイともっと一緒にいたかったんだ。


私が、部屋の扉を閉めると

レイは微かに目を細めた後、黙ったまま歩き出した。



バサ…



布団がめくられ、レイがベッドに入る。


どくどく、と、全身の血管が大きく脈打つ。


私が緊張で一歩も動けずにいると

横になって布団を腕でめくり上げたレイが、熱を宿した瞳で私を見た。



目が合った瞬間

レイの掠れる声が部屋に小さく響いた。



「……ん、おいで。」