闇喰いに魔法のキス



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デート当日。


窓からキラキラと差し込む朝の光を浴び

私は、鏡の前に立っていた。



…変じゃ、ないかな?



今日だけは、いつもより可愛くなりたくて、髪も、メイクも、パーティの時にお世話になった近所のお姉さんに整えてもらった。


服だって、デートに誘われた日から何度も何度もクローゼットの中から服を出し

着せ替え人形のように脱いだり着たりを繰り返した。


結局、何を着ようか決まったのは今朝になってからだ。


最終的には、レイがパーティに行く時に私に選んでくれたドレスを意識して、淡いピンクのワンピースに決めた。



レイが選んでくれたってことは、多少レイの好みってことだよね…?



ドキドキしながらカバンを肩に提げ

腕時計をしながら離れの部屋を出る。


低めのヒールのパンプスを履いて酒場の扉を開け外に出ると

そこにはすでにレイの姿があった。


いつものバーテンの服とは違う、スラリとした細身のコートを着こなすレイは、直視出来ないほどかっこよく見えた。


つい、見惚れていると

レイが私の方を、ふっ、と見た。


目が合った瞬間

どきん!と胸が音を立てる。



「レイ…お、おはよ。」


「ん、おはよ。準備はいいか?」



私は、こくん、とぎこちなく頷く。


すると、レイは無言で私をまじまじと見つめた。



…っ。

ど、どこか変かな…?



変に緊張して、いつもより多めにまばたきをしていると

レイは柔らかく微笑んで口を開いた。



「…可愛いな。」


「っ!!」



突然のド直球な言葉に

私はつい、かぁっ!と頬を染めた。



れ、レイってば、本当に心臓に悪い…っ。



私が、照れてレイを直視出来ずにいると

レイは、すっ、と私の手を取った。



っ!



ぱっ、と顔を上げると

レイはいつもより優しい声で、私に囁く。



「車をこの先に停めてあるんだ。

そこまで少しだけ歩くぞ。」



「えっ…!」



私は、驚いてレイに尋ねる。



「車…?

レイ、運転出来たの?」



「あぁ。荷物が重い酒場の搬入をするときはだいたい車だ。

瞬間移動魔法を使えば一発だけど…ドライブデートもいいだろ?」



…!


“ドライブデート”…。



私は、ワクワクした気持ちが胸に込み上げた。


私の手を取って歩き出すレイに、明るい声で聞く。



「今日は、どこに行くの?」


「色んなとこだよ。着くまで秘密。」



レイは、さりげなく車道側を歩きながら

私のペースに合わせてゆっくり進む。


いつものぶっきらぼうな声ではなく、包み込むようなその声に

私はレイの手を、きゅ…、と握り返して呟いた。



「…なんか、レイが優しいのって、落ち着かないな。」



すると、レイが目を細めながら私に言った。



「…俺はいつも優しかっただろ?」



「ギルはいつも優しかったけど…。」



「ギルは俺だぞ?」



「そうだけど…っ!」



レイはいつも私と意図的に距離を置いてたし冷たい口調で悪態ついてばっかりだったから

急に優しく甘い言葉をぽんぽんかけられると落ち着かないよ。



すると、レイは、小さく笑って口を開いた。



「じゃあ、ずっとドキドキしてろ。

今日はとことんルミナを口説いてやる。」






〜〜っ。



「…やっぱり悪魔だ…。」



私の呟いた声に

レイは手を繋いでいただけだった私の指に、自分の指を絡めた。


そして、私の耳元で甘く囁く。



「ルミナ。

今日はデートが終わるまで、ずっと一緒にいような。」



…!


私は、こくん、と頷いた。



優しく伝わるレイの体温に、レイと並んで歩いているという幸せが胸に込み上げる。



私の心臓、今日一日持つかな…?



心の中をいっぱいにしたタチの悪い甘い熱が

私に、レイとの“初デート”の始まりを告げたのだった。