……。
ルオンは、ロディの言葉の続きを察したように
ロディの隣で無言になった。
俺はぱちぱち、とまばたきをした後
眉を寄せてロディに尋ねる。
「…何が言いたい。」
すると、ロディは紙をテーブルに置いて
胸ポケットから取り出したタバコに火をつけながら答えた。
「いや、お前のことだから
明日は嬢ちゃんと出かけたまま帰って来ないつもりかと思ってたんでな。」
「今まで散々“手を出すな”って言ってたのはどこのどいつだよ…!」
俺が低い声でそう呟くと
ロディは長い指でタバコを口に運びながら言った。
「レイの気持ちが一方通行じゃなくなった以上、今までとは勝手が違うだろ。
俺はもう何も止めないから安心しろ。」
さらり、と言われたその言葉に
俺は眉をぴくり、と動かした。
そしてテーブルの上に置かれた紙を手に取りロディに答える。
「明日は普通に出かけるだけだって。」
すると、それを聞いたルオンが目を細めて口を開いた。
「兄さん、何、紳士ぶってんの?
悠長にしてると、僕が横からかっさらうよ」
「あー、もー、うるさい…!
不純なお前ら二人のアドバイスは、もう聞かねぇっ!」
俺はケータイをポケットにしまって、勢いよくソファから立ち上がった。
…自分の部屋で一人で考えたほうが、よっぽど効率がいい。
こいつら、面白がってダメ出しするばっかりだし。
酒場の奥へと続く扉に手をかけた、その時
低く真剣味を帯びたロディの声が酒場に響いた。
「レイ。」
!
思わず、ぴたり、と足を止める。
ロディは、俺の背中に向かって言葉を続けた。
「俺は、お前が今まで、ずっと嬢ちゃんのためだけに自分の時間を使ってきたってことを分かってるから、明日くらい好きなことをさせてやりたいと思うけど…
嬢ちゃんにあんまり期待させるような無責任な事を言うんじゃねぇぞ。」
…!
どくん。
釘を刺され、心臓が鈍く鳴った。
…“期待させるような無責任な事”…。
俺は、ロディに背中を向けたまま
小さく呼吸をして呟いた。
「…言われなくても、分かってるよ。」
キィ…、という扉の軋む音が
どこか、この世界とは別の次元のところから聞こえたような気がした。
その時だけは、俺の心がここから一瞬消えてしまったんだと思う。
…明日は、ずっと笑って過ごすんだ。
ルミナと、一緒に。
好きなことだけをして、過ごすんだ。
闇喰いからも、バーテンからも離れた
“レイ”として。
やり残すことがないように。
俺は、明日が終わる、その瞬間まで
ルミナを笑顔にすることだけを考えればいい
酒場に残ったロディとルオンが
扉の向こうに消えていく俺の背中をどんな表情で見つめているのか
振り返ることのない俺には分からなかった。
《レイside終》



