ログハウスが、しぃん…、と静まり返る。
私の言葉に、モートンはちらり、とレイを見た。
レイは、黙ったまま目を伏せている。
それを見たモートンは、覚悟を決めたように前髪からのぞく綺麗な翠色の瞳で私をまっすぐ見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「そうです。ルミナさんの言った通り、シンをこの世に生み出したのはラドリーです」
ガラリ…、と私の中で何かが崩れたような気がした。
闇魔法を憎んでいたお父さんが、この世で最強の闇魔法を自ら作り出してしまったなんて。
闇魔法だと知らずに…
闇を打ち消す魔法だと信じて生み出した魔法が闇魔法だと知った時、お父さんはどれほど苦しかっただろう。
モートンは、視線を逸らすことなく、さらに続けた。
「シンは、相手がどんな強い魔力の持ち主でも一瞬で倒してしまうほどの一撃必殺の闇魔法なんです。ですので、闇からしてみれば、シンは宝石よりも価値がある。…喉から手が出るほど欲しいでしょうね」
だから、リオネロ達はシンを狙っているんだ…!
自分が、誰よりも強くなるために、最強の力を手に入れようとしている…!
モートンは、魔法書にちらりと視線を移し続ける。
「シンは、相手を永遠の深い眠りにいざなう魔法なので、正確には必殺ではないんですがね。」
永遠の深い眠り…?
その時、モートンが私の肩をぎゅっと掴んだ。
私がモートンを見つめ返すと、彼は私の心に入り込むような声でゆっくりと言った。
「ラドリーは、人を傷つける闇にシンが渡らないよう、自分の魔力を使ってルミナさんの中にシンを閉じ込めたんです」
私は、モートンの言葉に目を見開いた。
言葉の意味が信じられず、固まってしまう。
私の中に、シンを閉じ込めた…?
そんなことが出来るの…?!
「ルミナさんがシンを使いこなせると思った相手にだけ、シンの魔力が宿ります。相手にシンの魔力が渡った瞬間、ラドリーの魔法が解け、シンは相手のものになるんです」
「私が、誰かにシンを授けるということですか?」
「ええ。その通りです」
信じられない答えに、絶句する。
つい、自分でも無意識のうちに大きな声が出た。
「私は、危険な闇魔法を闇に渡そうだなんて考えません…!シンを消すことは出来ないんですか…?」
「名もなき魔法を作るためには、シンを消すわけにはいかないんです。…せめて僕が、ラドリーから受け継いだ名もなき魔法の研究を終わらせるまでは…」
そ…そんな…!
じゃあ、シンの魔力を持っている私は、これからもずっと闇に狙われるの…?



