前言撤回。

やっぱり、レイとルオンは和解してない。


レイが、じろっ!とルオンを睨んだ、その時

ルオンが、ばっ!とレイの背後へと回り込んで、私の目の前に来た。



そして、冷たい瞳で振り返るレイをよそに、ルオンは私に向かって口を開いた。



「これからは、ちょくちょく会いに来るから

よろしくね、“姉さん”。」



「ね、“姉さん”…?」



私が目を丸くした瞬間

レイがルオンの肩を掴んでイライラしたように言った。



「なにが“姉さん”だ、馴れ馴れしいぞ!

距離を縮めようとすんな!」



すると、ルオンは無邪気な瞳をレイに向けて言った。



「兄さんが言ったんじゃないか!

研究所跡地での戦いの最中に、“ルミナは一生俺のもんだ”って。」



「!」



えっ!


私とロディが目を見開くと

ルオンはレイに向かって言葉を続ける。



「ルミナが兄さんのものってことは、じきに僕の義理の“姉さん”になるってことでしょ?

そんなに、僕が“姉さん”って呼ぶのが気にくわない?」



「………。」



私は、思わぬ展開に一気に赤面してしまう。



レイってば、そんなこと言ったの…?



黙り込んだレイをちらり、と見つめると

レイはどこか満足げにルオンに言った。



「そういう理由なら、良し。」



納得するんだ…?!


お互い合意の上で成り立った兄弟たちの会話に、私とロディは無言でまばたきをした。


ルオンは、レイの言葉を聞くと

にっこり笑って私を見つめた。


まっすぐな視線に少しドキッ、としていると

ルオンは整った顔を私に近づけながら、さっきとは違うどこか艶のある声で私に囁いた。



「じゃあ、さっそく親睦を深めよっか。

まずはデートしない?もちろん“二人っきり”で。」



「デ………?!」



私がつい声を出した、次の瞬間

レイが、ガッ!とルオンの頭を掴んで低い声で呟いた。



「調子のんな、ませガキ……!

礼が済んだらさっさと帰れっ!」



レイの瞳は、いつもの数十倍は冷ややかで、鋭い。


ギリギリと頭を掴まれたルオンは、ばっ!と逃げるように私とレイから離れた。


レイにムッ、とした視線を向けるルオンに、ロディが声をかける。



「ルオンは、当分モートンのログハウスに住むんだろ?

またここに連れてきてやるから、いい加減、兄弟仲良くしろよ。」



「「こいつとは仲良くなれない!!」」



レイとルオンの声が重なった。


私は、その光景につい吹き出してしまう。



…ルオン、私は気づいてるよ。



本当は、レイの顔を見に来たんだってこと。


酒場の扉の向こうで、レイに会うことを躊躇して少し不安がっていたこと。



たった二人の家族だもんね。



ダウトがいなくなった今、この二人の兄弟の間の溝も、少しずつ埋まっていくんだ。


きっと、二人仲良く笑い会える日が来る。


私は、再び言い合いを始めたレイとルオンを

ロディと共に穏やかな気持ちで見つめたのだった。