───キィ。


二人で酒場に帰ってきた二日後。


私が離れから酒場へと続く扉を開けて中へ入ると

カウンターには見慣れたいつもの光景があった。



「おはよう、レイ。」


「ん。おはよ。」



レイが、バーテンの服を着てグラスを拭いている。


朝の挨拶を自然に交わす、このひとときに、私の心は感動で震えた。



…日常が、戻ってきたんだ…!



私がカウンターに腰掛けると

レイが作業を続けながら、いつものポーカーフェイスで言った。



「朝メシ作ってあったの、気づいたか?」


「うん、すごく美味しかった。

明日は私が作るね。」



「おー、楽しみにしとく。」



何気ない会話にも、つい頬が緩む。


ぶっきらぼうな言葉には変わりないが

レイの声にはどこか優しさが感じられた。


表情も、いまだに無愛想で何を考えているのかいまいち分からないけど

同居を始めた時に比べれば、ずいぶん柔らかくなったような気がする。



…幸せだなぁ。



私が、つい笑みを浮かべたその時

キィ、と街から通じる酒場の扉が開いた。


音のした方へと視線を向けると

そこには黒い細身のコートを羽織ったロディがいた。



「お、二人とも揃ってるな。」



低く艶のある声が酒場に響く。



「!ロディ、おはよう。」



「おはよう、嬢ちゃん。

すっかり元気になったみたいだな。よかったよかった。」


ふっ、と笑みを浮かべたロディは酒場の扉にもたれかかったまま腕を組んだ。



「本当、レイが嬢ちゃんを忘れた時はどうなるかと思ったが…

名もなき魔法がうまくかかってよかったよ」



ロディの言葉に、私は穏やかな表情で頷いた。


…モートンがいなかったら、名もなき魔法の魔方陣はきっと完成しなかった。


レイが元に戻ったことは電話で伝えたけど

後で、ちゃんとお礼に行かなくちゃ。



と、その時

私は酒場の扉に寄りかかったままのロディにふと違和感を感じた。



「ロディ、酒場に入らないの?」



声をかけると、ロディは小さく笑って

ふぅ、と息を吐いた。


そして、扉の外に視線を向けて口を開く。



「あぁ、入るよ。

…ん、お望み通りちゃんと連れてきてやったんだから、お前も入れ。」



え…?


どうやら、ロディは誰かを連れてきたようだ。


扉に隠れて姿はまだ見えない。



その時

カウンターの向こうから、ガチャン、と
グラス同士がぶつかる音が聞こえた。


驚いてレイの方を見ると

レイは、ぐっ、と眉間にシワを寄せて、ものすごく不機嫌な顔をしている。





レイ……?



私が首を傾げた次の瞬間

レイの不機嫌な理由がすぐに分かった。



「…へぇ、ここが兄さんの酒場か。」



え……?!