私が、照れ隠しでそう言うと

レイは急に無言になる。



…?

もしかして、怒ったかな。



ちらり、とレイの方を見る。


すると、レイは微かに頬を赤らめてまつ毛を伏せていた。



どきん…!



私の胸が大きく音を立てたその時

レイの綺麗な碧眼が私をとらえ、少し掠れた甘い声が耳に届いた。



「…そーだよ、ダメかよ…?」



っ!


私は、全身の体温が一気に上昇した。



き…急に素直になるの、やめて欲しい…っ。

本当にレイって…心臓に悪い。



レイの瞳から目が離せないでいると

レイが、私との距離を詰めた。


整った顔が近くに来る。


私が、ぴくっ、と体を震わせた時

レイが私を見つめながら低い声で言った。



「……さっきの一瞬すぎて足りなかった。」



「!」



レイが、ゆっくりと私に近づいた。


大きくて温かいレイの手の感触が頬を包む。



あ…

ダメだ。


抗えない………



甘い予感がした瞬間

二人の唇が重なった。



「……ん…ぅ……っ…」



呼吸が止まる。


レイのことしか、考えられない。



「……は……っ…」



レイが、小さく呼吸をして私から離れた。


目をゆっくり開けると、綺麗な碧眼と視線が重なる。


二人は、数秒見つめ合った。


甘い沈黙の後、私は小さく笑って口を開く。



「…今回は通信機で筒抜けじゃないよね?」



「!」



レイは私の言葉に、ぱちり、とまばたきをした。


そして、ふっ、と微かに口角を上げて私の手を握る。


レイは私の手を握ったまま数歩歩くと

ぴたり、と立ち止まって、端正な横顔を私に向けた。


そして、微かに弧を描く形の良い唇から
レイの甘い声がした。



「ロディには内緒な。」






…また、ロディに怒られちゃうもんね。



優しく笑い返すと、レイは私に背を向けて歩き出した。


無邪気なレイの表情は、私の心に深く刻まれる。


くすくすと笑みがこぼれた。


私が笑っている声を聞くと

レイは私の前を歩きながら呟いた。



「俺、これからも定期的に記憶が曖昧になる予定だから。」



「…っ!え?」



「ロディが不在の時に発症するから。

そん時はまた頼むわ。」



レイの背中を見上げる。



…顔を見なくても、どんな表情で言ってるか想像がつく。


きっと、照れ隠しのポーカーフェイス。

だけど、隠しきれずに耳は赤い。



私は、そんな可愛いレイにまんまと翻弄されて

照れながらレイに答えた。



「それって、記憶が曖昧にならない時はキスしないってこと…?

普通にすればいいんじゃ………」



「…言ったな?」



「っ!!」



きゅ…、とレイが繋いだ手に力を入れた。


指先から、心地よい体温が伝わってくる。


ほっ、と安心感が体じゅうに広がって

無意識のうちに頬が緩んだ。



…絶対この手を離したりしない。


私たちを引き裂くものなんて、この先には
もうないはずだから。



レイの長い指が私の指に絡まる。



……全てが、終わったんだ。



もう、レイから離れたくない。


私、この人を好きになってよかった。



月明かりが、手を繋いだ二人を優しく照らし

真夜中の街を、酒場に向かって歩く影がアスファルトに映った。