私が慌ててそう言うと、レイはくすくす、と小さく笑いだした。


からかわれたんだと気付いた時には、私の顔はさっきよりもずっと赤くなってしまっていた。


私は、レイの胸元に顔をうずめながら呟いた。



「…いじわる……」


「ふ…っ。ごめん、つい。」



レイが柔らかく笑っている声を聞いていると

心の奥が温かくなって、ふわり、と軽くなったような気がした。



やっと、レイとの心の壁が全てなくなった。


もう、二人の間に嘘なんてない。



「レイ。」



私がレイの名前を呼ぶと、レイは「ん…?」と小さく答える。


私は、すっ、と顔を上げてレイを見上げた。


そして、まっすぐ視線を逸らさずに口を開く。



「酒場、出て行かないよね…?」


「!」



レイは、小さく目を見開いた。


そして、まつ毛を伏せると

見たこともないくらい優しい表情で私に答えた。



「…あぁ。

俺は、もうどこにも行かない。」



…!


ふいに、止まったはずの涙が溢れそうになった。


私は、心を落ち着けようと深呼吸をして

レイに向かって笑顔で言った。



「…レイ、一緒に帰ろう?

私たちの酒場に。」



レイは、私の言葉に微かに口角を上げて頷いた。


私は、レイの手を引いて歩き出す。



「……あ。」



その時

ふと、レイが小さく声を出した。



…?



ぱっ、と振り返ると、レイはいつものポーカーフェイスで黙り込んでいる。


私が不思議がって見つめていると

レイが、ふっ、と私の方を見て口を開いた。



「ルミナ。」


「何?レイ。」



レイは、コツ…、と私に一歩近づいて

色香を帯びた瞳で言葉を続けた。



「…もっかい魔力を移してくれないか?

俺、まだ記憶が曖昧かもしれない。」



「えっ?!!」



私は、慌てて答える。



「ま、魔力は全部移したよ…?

もう私の中には残ってない…!」



「じゃあ、キスでいいから。」



「っ?!!」



私は、突然の爆弾発言に、かぁっ!と頬を染める。



な、何言ってるの、レイ…!



私が激しく動揺して照れているにもかかわらず、レイはポーカーフェイスを崩さない。


私は、さっ、と視線を逸らしてレイに言った。



「全部思い出したって言ってたじゃない…!

本当は、キスしたいだけなんじゃないの?」



「…!」