私は、動揺してモートンの腕をぎゅっ!と掴んで彼に尋ねた。
「父は禁忌の闇魔法の研究をしていたんですか…?そんなわけないですよね…!?」
するとモートンは、私の肩へ優しく手を置いた。
モートンは穏やかな口調で私に答える。
「安心してください。ラドリーが研究していたのは、この魔法書に載っている“どんな闇魔法の効力も消すことのできる魔法”。今まで誰もかけたことがない…言わば“名もなき魔法”です」
“名もなき魔法”
緊張が解けて、体の力が抜けていく。
どんな闇魔法の効力も消すことのできる魔法。
そっか…。
やっぱり、お父さんはお父さんだ。
お父さんが人を傷つける闇魔法なんて使うはずがない。
レイは、黙って私たちの会話を聞いている。
私はその時、ふと頭の中に疑問が浮かんだ。
お父さんの研究をよく知っているモートンなら、シンのことも何か知っているかもしれない。
私は、意を決してモートンに尋ねた。
「あの…シンという闇魔法について、ご存知ないですか?」
モートンは、私がその名を口にした途端きゅっ、と口をつぐんだ。
そして少しの沈黙の後、さっきよりもどこか低い声で私に言う。
「シンは悪魔の魔法です。闇を打ち消す魔法だとされて研究が続けられてきましたが、いざ解読してみたらこの世のどんな闇魔法よりも凶悪な闇魔法でした」
やっぱり、シンはリオネロの言っていた通り、最強の闇魔法なんだ…!
「どうして、解読するまで闇魔法だと気づかなかったんですか…?」
すると、モートンは魔法書の表紙を撫でながら答える。
「シンは、名もなき魔法の一部としてこの魔法書に書かれているんです。シンをこの世に生み出さなければ、名もなき魔法は生まれない」
名もなき魔法を作り出すためには、シンが必要だったってこと…?
私は、嫌な予感がした。
心臓が再び鈍く鳴り出す。
ぎゅっ、と手のひらを握りしめて、私は恐る恐るモートンに尋ねた。
「もしかして…、シンの解読をしたのは、私のお父さんなんですか…?」



