ゆっくり体を起こしてそれを見ると

それは透明な液体の入った小瓶だった。



…!


これは、モートンから預かったレイの魔力が入った薬…!



その時

視界に、月明かりに照らされた綺麗な羽が見えた。



はっ!として見つめると

それはいつか見た“蝶”だった。



その瞬間、頭の中にルオンの声がこだまする。



“あいつらがルミナを僕のところに案内したんだ?”



…!


私の頭に、ある考えが浮かんだ。



もしかしたら……。



私は、地面に転がった小瓶を手に握りしめ、蝶を追って走り出した。


ひらひらと飛んでいく蝶は、まるで私を導くかのように、まっすぐ進む。



「…っ!」



裏道を出たところで私の目の前に広がったのは

想像を超えた光景だった。



キラキラと優しく月に照らされる花々は、蝶と共に夜空に花びらを舞いあげ風に吹かれている。


神秘的で、つい呼吸さえ忘れた。


夜空に羽を広げる蝶は、優雅に飛び回っている。


私は、サク…、と草原に足を踏み入れた。


そして、蝶がひらひらと飛んでいる場所まで来ると

私は空を見上げながら、手に持っていた小瓶の栓を抜いた。



…キュッ…!



ぽん、という小さな音と共に、私は夜空に舞う蝶に向かって小瓶を差し出した。


そして、声に願いを込めながら口を開く。



「お願い…!

私を、この魔力の持ち主のところまで連れて行って…!」



ザァッ…!


風が草原を吹き抜けた。


花びらが舞い、甘い香りが辺りを包む。


…魔法書に載っている蝶が、道案内をするなんて聞いたことがない。

そういう特性を持っているわけでもない。


でも、今は、この作戦に賭けるしかない…!



すると、一匹の蝶が小瓶の周りをひらひらと飛び始めた。


そして、ふわっ、と風に吹かれるまま

私が入ってきた路地とは反対方向の裏道へと飛んでいく。



…!



私は、ぎゅっ、と手のひらを握りしめた。


…一か八かだ。


あの蝶を追う…!



私は、レイの魔力の入った小瓶に栓をしてポケットに入れると

蝶を追って走り始めた。



不安定な月明かりが、裏道へと向かう私を照らしていた。