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「……レイ!」



街へと戻ってきて酒場の前に到着した私は、バン!と酒場の扉を開ける。


ロディと共に中へと踏み込むと、そこには誰もいなかった。


扉をよく見ると、“close”となっている。



…酒場が閉まっている。

酒場の奥を見ても、人気がない。


レイは、帰って来てない…?



その時

私の脳裏に別れ際のレイの言葉が蘇った。



“その代わり、俺は酒場を出て行く。

ガキの面倒は見られない。”



…!


まさか、本当に酒場を出て行ったの…?!


すると、ロディが辺りを見回して私に言った。



「嬢ちゃん、二手に分かれて探そう。

レイは、きっとこの街のどこかにいるはずだ。」







私は、ロディの言葉に頷いて

酒場に背を向けて走り出した。



…考えている暇はない。


こうやっている間にも、レイが遠くへ行ってしまうかもしれないんだ…!



タッタッタッ…



アスファルトを走る足音が、夜の街に響く。


もう夜の十時を回っている。

名前を叫んで走るわけにはいかない。


懸命に辺りを見回しながら走るが、銀髪の青年の姿はなかった。



…まさか、サンクヘレナを出てしまったんじゃ……。



国規模で起こっている鬼ごっこに、私はつい唇を噛む。



…レイ、どこにいるの…?



焦りだけが募り、呼吸が荒くなる。


やっぱり、握力だけじゃなくて体力もつけておけばよかったという後悔が私を襲った。


昼間は活気のある市場も、夜は違う顔を見せている。

人気のないテントが並び、少し怖い。



その時、市場の傍に伸びる細い裏道が目に入った。



…あの裏道って…

ルオンのいた草原に繋がってる道だよね…?



私は、その路地に引き寄せられるように走り出した。


いざ踏み込んでみると街灯はなく

月明かりだけが頼りな道。


なんだか、不安な気持ちが込み上げてくる。


と、その時

つい、アスファルトのヒビに足を取られ
私はその場に倒れこんだ。



ズササ…ッ!!



「…っ!」



暗闇で足元をよく見ていなかった。


擦りむいた膝から血が流れる。



「い…たぁ……っ」



掠れた声で呟いた瞬間

私のポケットから何かが転がり出た。



え……?