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「あと、何分かな…?」
「もうすぐだろ。」
この会話は、これでぴったり九十九回目。
時計の針は午後九時を回り、窓の外の樹海を夜が包んでいる。
…もう、夜だよね?
そわそわして、落ち着かない。
ロディも、心なしか余裕のない様子で、さっきから深呼吸をしてばかりだ。
まるで、私たちは赤ちゃんが生まれるのを病院の廊下で待つ家族のよう。
私が、百回目を口にしようとした、その時
研究室の扉が、ばん!と開いた。
「「っ!」」
私たちはその瞬間、すくっ、と立ち上がる。
モートンは、私とロディを見ると、にっこり、と微笑んだ。
…っ!!!
う、生まれたッ!!
私とロディは、急いでモートンに向かって駆け寄った。
ロディが、モートンの肩を掴んで叫ぶ。
「陣は、陣はどうなった?!
全部上手くいったのか?!」
すると
モートンが前髪を、すっ、とかき上げた。
整った顔は渾身のドヤ顔。
翠の瞳には、キラキラとした魔力が宿っていた。
「えぇ、もちろんです。
名もなき魔法の魔方陣は完成しました。」
!
モートンの言葉に、私とロディは言葉が出ない。
やっと…やっと完成したんだ。
これで、レイのリバウンドが解ける…!
その時、モートンが険しい顔をして言った。
「お二人とも、よく聞いてください。
名もなき魔法が完成したからといって、未知の魔法に変わりはありません。失敗する可能性だってあります。」
!
目を見開く私とロディに、モートンは冷静な声で続けた。
「これは光の魔法なのでリバウンドはありませんが、その代わり成功する確率が低いです。
もし、レイ君に上手くかかったとしても、レイ君自身がリバウンドを解きたいと強く思わなければ、全てを思い出すことは不可能でしょう。」
どくん…!
心臓の鼓動が全身に響いた。
モートンの真剣な声に、私はごくり、と喉を鳴らす。
…レイの、気持ち…。
レイは、私のことを思い出す気はないって言ってた。
心が揺れる。
もし、名もなき魔法が成功しても、レイが私のことを思い出さないかもしれないってこと…?
その時
モートンが、すっ、と私の肩に手を置いた。
はっ!として顔を上げると
綺麗な翠の瞳が私を見つめている。
モートンの優しく、芯の通った声が耳に届いた。
「名もなき魔法をレイ君にかける役目は、ルミナさんにしか出来ないと思います。
あなたなら、きっとレイ君の心を動かせる」
「…!」
体に緊張が走った。
私は、早口でモートンに尋ねる。
「私、魔法なんて使えません…!
どうやったら……」
「大丈夫、心配はいりません。」
モートンは、動揺する私を落ち着かせるように言葉を続けた。
「僕は、今からルミナさんに名もなき魔法の魔力を封じ込めます。
ルミナさんは、シンをギルに渡した時のように、レイ君に名もなき魔法の魔力を渡せばいいのです。」
!
シンの時と、同じように……?



