ある違和感を感じた、その時
名もなき魔法の隣に載っている、シンのページに目が止まった。
シンのページは、他のページと違っていた。
千歳草が描かれていることは同じだが、まるでシンの魔方陣を囲うように千歳草の蔦が絡まっている。
…どうして、シンのページだけ…?
そう思った、次の瞬間
私の頭の中に、かつてのモートンのセリフが響いた。
“シンは、名もなき魔法の一部としてこの魔法書に書かれているんです。
シンをこの世に生み出さなければ、名もなき魔法は生まれない”
“千歳草は良薬ではありますが、使い方を間違えれば猛毒にもなります”
“良薬”が、“猛毒”になる…
裏を返せば、“猛毒”が、“良薬”に……
!!
私は、全ての謎が解けて、点と点が繋がったような気がした。
頭の中にあるかかった靄が消えていく。
「モートン!!」
私が大きな声を上げると、モートンとロディは、びくっ!と震えて私を見た。
驚いている二人に、私は興奮気味で口を開く。
「千歳草は、良薬にもなれば猛毒にもなる。
シンが、名もなき魔法の解読に役立つのなら、同じことが言えるのかもしれない…!」
「どういうことです…?」
私にそう聞き返したモートンに、私はシンを指差しながら言った。
「シンが最強最悪の闇魔法で、名もなき魔法が全ての闇魔法の効力を消す光の魔法なら
名もなき魔法の残りの半分は、実はシンなのかもしれないってことです!!」
「!」
モートンとロディは、私の言葉に目を見開いた。
…千歳草の二面性は、現代の人で知っている人は少ない。
魔法書の研究をする魔法学者でなければ、そのことに気づくのは難しい。
サンクヘレナで生きていた昔の人々は、闇魔法と光の魔法が権力や独裁に使われないように
この禁忌の魔法を千歳草と共に記すことで、平和を守ろうとしたんだ。
古代、人々の命を救い続けた千歳草を、希望の象徴と重ねて……。
その時、モートンは難しい顔をしながら口を開いた。
「確かに、シンは名もなき魔法の一部として記されていますから、僕もいろいろ名もなき魔法の魔方陣の中に組み込んだりしてみたんですが…
“四ヶ所”だけ、どうしても陣に穴が出来てしまうのです。他に記載はありませんし…」
“四ヶ所”…。
私は、はっ!として魔法書をめくった。
そして、そこに記されている禁忌の中で、千歳草の描かれたページに目を通していく。
始めは、リオネロの使った禁忌。
そして、シルバーナの使った禁忌。
シンの隣に並ぶのは、ラルフとルオンの禁忌…。
数は、“四つ”だ…!
私が、ある確信を持った瞬間
私の考えに気がついたロディが声を上げた。
「まさか、今までダウトの奴らが使った禁忌が、残りの四ヶ所を埋める鍵になるってことか…?!」
私は、頷いてモートンを見つめた。
緊張感が体を支配する中、モートンの言葉を待つと
モートンが目を見開きながら呟いた。
「…そうか……僕は今まで、シンを組み込むことしか考えていなかったけれど…
千歳草の載っているページの禁忌を全て魔方陣に加えれば……!」



